前提知識
Maxwell方程式, 誘電率テンソル
本題
電気光学効果は、常誘電体の誘電率テンソルと静電場の間の相互作用に関する効果の総称です。しかしなぜか、数式できちんと説明している日本語文献はまったく見当たりません。
電気光学効果は、誘電率テンソルの逆写像である逆誘電率テンソル(dielectric impermeability tensor)$\eta =\varepsilon ^{-1}$の外部静電場に対する応答として記述できます。
まず、逆誘電率テンソルの各成分を電場に関してテイラー展開を行うと、
となります。
$r_{i j k}=\left(\dfrac{\partial \eta_{ij}}{\partial E_{k}}\right)_{E=0}$、$s_{i j k l}=\dfrac{1}{2}\left(\dfrac{\partial^{2} \eta_{i j}}{\partial E_{k} \partial E_{l}}\right)_{E=0}$とおくと、電場による逆誘電率テンソルの変化は
と表されます。一次の項の係数$r_{ijk}$は反変2価、共変1価のテンソルであり、Pockels係数と呼ばれ、二次の項の係数$s_{ijkl}$は反変3価、共変1価のテンソルであり、Kerr係数と呼ばれます。Pockels係数は、3階テンソルであるため、本来27成分ありますが、定義の対称性により、独立な成分は18成分です。また、Neumannの原理に基づいて、系の反転対称性を仮定すると、すべての成分が0になります。
例えば、三方晶では、Pockels定数の独立な成分は18成分の内6成分で表されます。(ただしこの表記に対して通常の行列演算は定義されない。)
$$r= \begin{pmatrix} {0} & {-r_{22}} & {r_{13}} \\ {0} & {r_{22}} & {r_{13}} \\ {0} & {0} & {r_{33}} \\ {0} & {r_{51}} & {0} \\ {r_{51}} & {0} & {0} \\ {-r_{22}} & {0} & {0} \end{pmatrix}$$したがって、電場がかかると、逆誘電率テンソルは
$$\begin{pmatrix} {\dfrac{1}{n_{o}^{2}}-E_{2} r_{22}+E_{3} r_{13}} & {-E_{1} r_{22}} & {E_{1} r_{51}} \\ {-E_{1} r_{22}} & {\dfrac{1}{n_{o}^{2}}+E_{2} r_{22}+E_{3} r_{13}} & {E_{2} r_{51}} \\ {E_{1} r_{51}} & {E_{2} r_{51}} & {\dfrac{1}{n_{e}^{2}}+E_{3} r_{33}} \end{pmatrix}$$で表されるため、屈折率楕円体$r^T \eta r=1$も変化します。
この逆誘電率テンソルに対して決まる光学軸とそれに対応する屈折率は、逆誘電率テンソルの固有ベクトルと固有値に対応するため、静電場により、光学軸と屈折率が変化することが分かります。例えば、$E_1=E_2=0$の時は、光学軸の方向は一定であり一軸性を保つが、光学軸に対応する屈折率は電場に応じて
に変化します。
これが、電場に対して屈折率が1次的に変化すると言われる所以です。しかし、一般の電場に対して光学軸と屈折率を導くことは、3次の固有方程式を解く必要があるため(カルダノの公式)、近似しない限り計算は非常に困難です。
参考文献
- A. Yariv and P. Yeh. Optical waves in crystals: propagation and control of laser radiation. Wiley series in pure and applied optics. Wiley, 1984.