角度を単位円上の点として扱う幾何代数の技法によって、円周角の定理を確認します。
クリフォード代数は使用しないで、複素平面上でオイラーの公式を使用します。
※ 図は Markdown に SVG を直接記述しています。詳細はこちらをご参照ください。
前提知識
複素数とその演算(和・積・共役・絶対値)については既知とします。
複素平面上で、オイラーの公式は偏角を単位円上の点に移します。
$$e^{iθ}=\cosθ+i\sinθ$$単位円上の点同士の積から、偏角を合計した点が求まります。
$$e^{iα}e^{iβ}=e^{i(α+β)}$$片方を複素共役にすれば、偏角の差を表す点が求まります。
$$e^{iα}\overline{e^{iβ}}=e^{iα}e^{-iβ}=e^{i(α-β)}$$これは角度差を単位円上の点として表現したものだと解釈できます。
円周角の定理
単位円上に 3 点 $A,B,C$ を取り、$B,C$ から $A$ と円の中心 $O$ に線を引きます。
$∠BAC$ を $θ$ とおきます。$B,C$ を固定したとき $θ$ は $A$ に依らず一定で、$∠BOC$ は $2θ$ となります。これを円周角の定理と呼びます。
これが成り立つことを確認します。
$A,B,C$ が単位円上にあることから、$|A|=|B|=|C|=1$ となります。
$$\therefore A\overline A=B\overline B=C\overline C=1$$$A$ が原点に来るように座標をずらします。
$$\begin{aligned} O'&=O-A=-A \\ A'&=A-A=O \\ B'&=B-A \\ C'&=C-A \end{aligned}$$線分 $A'B',A'C'$ と $A'$ を中心とした単位円との交点 $B'',C''$ は、$B',C'$ を正規化(絶対値で割ること)することで求まります。
$$B''=\frac{B'}{|B'|},\ C''=\frac{C'}{|C'|}$$$B'',C''$ によって、$θ$ を単位円上の点として表現できます。
$$e^{iθ}=\overline{B''}C''=\frac{\overline{B'}C'}{|B'C'|}$$両辺を 2 乗します。途中で $A\overline A=B\overline B=C\overline C=1$ を利用するのがポイントです(赤字部分)。
$$\begin{aligned} e^{i(2θ)} &=\frac{(\overline{B'}C')^2}{B'C'\overline{B'C'}} \\ &=\frac{\overline{B'}C'}{B'\overline{C'}} \\ &=\frac{(\overline B-\overline A)\textcolor{red}{A\overline A}(C-A)}{(B-A)(\overline C-\overline A)} \\ &=\frac{(\overline BA-\textcolor{red}{\overline AA})(\overline AC-\textcolor{red}{\overline AA})}{(B-A)(\overline C-\overline A)} \\ &=\frac{(\overline BA-\textcolor{red}{\overline BB})(\overline AC-\textcolor{red}{\overline CC})}{(B-A)(\overline C-\overline A)} \\ &=\frac{\overline B(A-B)(\overline A-\overline C)C}{(B-A)(\overline C-\overline A)} \\ &=\overline BC \\ \end{aligned}$$$∠BOC$ を単位円上の点として表現したのが $\overline BC$ です。よって $∠BAC$ を $θ$ とおけば $∠BOC$ は $2θ$ となります。
また、$e^{i(2θ)}$ は $A$ に依らず $B,C$ から値が決まります。その平方根である $e^{iθ}$ も同様です。よって $B,C$ を固定したとき $θ$ は $A$ に依らず一定となります。
以上で円周角の定理は示されました。
参考
幾何代数 (geometric algebra) で円周角の定理を証明する記事を参考にしました。
著者によれば、この証明を思い付くのに非常に苦労したとのことです。どこがポイントなのかを解読するため、複素数で書き換えたのが今回の記事です。
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同様の手法で基礎的な事項を確認します。今回の記事が難しければ、こちらを読むことをお勧めします。
以下の記事も同様の手法で定理の証明を試みましたが、主要な部分は実数の計算になるため、あまり独自性はありませんでした。