2023/06/18 17:46 更新
モノイド ({0,±1},⋅) から圏を作ってみた
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目次

初めまして、MathWills というものを見つけたので試しに記事を書いてみます。宜しくお願いします。

単一対象圏とモノイドの同値性

Wikipedia のモノイドのページに以下のような記述がありました。

モノイドはただひとつの対象をもつ圏(単一対象圏)と本質的に同じものである。もっとはっきり述べれば、モノイド (M, •) はただひとつの対象をもち、M の元を射として小さい圏を成す(射の合成はモノイド演算 • で与えられる)。

これを確かめるために、具体的にモノイドから圏を構成する例として $(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ と同値な圏を構成してみます。

モノイド $(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ の性質

まず、台集合として $\left\{ 0,1,-1 \right\}$ を選び、これに通常の意味での乗算を入れたものを考える。

* 0 1 -1
0 0 0 0
1 0 1 -1
-1 0 -1 1

このとき、この演算は結合律を満たし、また、乗法に関する単位元 $1$ を持つ。従って $(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ はモノイド(かつ、可換モノイド)となる。しかし、0 には乗法逆元が存在しないため、これは群ではない。

圏の対象を決定する

まず、求める圏は対象を1つ持ち、射を3個持っている。このような圏を構成していく。

このとき、圏の唯一の対象を ${\lbrace a \rbrace }$ とすると、考えられる射は $f:a \mapsto a$ ただ一つのみであり、射を3個持つという条件を満たさない。

圏の唯一の対象を ${\lbrace a, b \rbrace }$ とすると、考えられる射は4つある。この中から3つを選ぶ方法は4通りあるが、どのように3つを選んでも $(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ に同型にならない。

従って、最低でも元の個数を3個にする必要があることがわかる。以下では圏の唯一の対象を ${X = \lbrace a, b, c \rbrace }$ とする。

圏の射を決定する

このとき可能な射は $3^3 = 27$個存在する。まず、単位元が必要であることから、

$$f: \begin{cases} a \mapsto a \\ b \mapsto b \\ c \mapsto c \\ \end{cases}$$

を含むことがわかる。加えて、吸収元(=乗法零元)も存在することから、(特別な場合を除いて)少なくとも $\{a,b,c\}$ は同値な一点に飛ばされなければならない。そのような元を適当に一つ選ぶと、

$$g: \begin{cases} a \mapsto a \\ b \mapsto a \\ c \mapsto a \\ \end{cases}$$

となる。また、残りの元は 2回掛け合わせると $f$ になるような元であるから、

$$h: \begin{cases} a \mapsto a \\ b \mapsto c \\ c \mapsto b \\ \end{cases}$$

のような写像が例として考えられる。

圏であることの確認

これが圏であるためには、まず射の合成が $\left\{ f, g, h \right\}$ で閉じている必要がある。さもなくば、射の合成と呼ばれる二項演算を定義できない。9通りの射の合成について、具体的に計算してみる。まず、$f$ は恒等写像であるので、

$f \circ f = f$
$g \circ f = f \circ g = g$
$h \circ f = f \circ h = h$

となる。$g$ は吸収元でなければならないので、

$g \circ g = h \circ g = g \circ h = g$

となる必要があるが、実際に計算してみるとこの通りになることがわかる。これは、a に移された元は他の写像によって a 以外に移されることがないからである。もしもこの圏に

$$g': \begin{cases} a \mapsto b \\ b \mapsto b \\ c \mapsto b \\ \end{cases}$$

なる射が存在していたならば、$g' \circ g = g'$ となり $g$ は吸収元にならず($g'$ も同様に吸収元にならない)、従ってモノイド $(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ に一致しない。

最後に、

$h \circ h = f$

となる。以上より、この演算は閉じており、射の合成が定義できることがわかる。また、写像の合成は結合法則を満たすため、圏としての結合法則も満たす。加えて単位元 $f$ も持つため、これは圏として成立している。

$(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ と同型であることの確認

最後に、$f$ を $1$ に、$g$ を $0$ に、$h$ を $-1$ に対応させると、この圏とモノイド $(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ は全単射な準同型写像を持ち、従って同型となる。

以上より、モノイド $(\left\{ 0,1,-1 \right\}, \cdot)$ と同値な圏をひとつ見つけることができた。