2020/04/26 11:54 更新
Rn\R^n上の調和関数はCC^{\infty}級関数のみである!
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前提知識

微分幾何学における一般化されたストークスの定理(の特別なバージョンである一般次元におけるガウスの発散定理).

厳密に言うと測度論やLebesgue-Stieltjes積分論を知っていると良い.
(細かいところに目を瞑る勇気があるならば, 大学教養レベルの微分積分でok.)

調和関数とは

定義

関数f:RnRf:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}が調和関数であるとは, Δ=2=k=1n2xk2\Delta = \nabla^2 = \sum_{k=1}^n\frac{\partial^2}{\partial x_k^2}とするとき,

Δf=0 \Delta f = 0

という微分方程式の解となる関数のことである.

Rn\mathbb{R}^n上で定義された調和関数はCC^\infty級関数のみである!

主張

表題のとおりだが, 実は,
Rn\mathbb{R}^n上で定義された調和関数はCC^\infty級関数のみ」
なのである.
これを初めて聞いてもピンと来ないかもしれないので, 少し注意しておくと, 調和関数の定義をする限りにおいては関数はC2C^2級までの仮定しかいらないのであるが, その調和関数が実は無限階微分できてしまうというのである. これは驚くべきことである.

以下ではその証明を行っていこう.

主張の証明

この主張を証明するにあたって以下のように2段階のStepを踏んでいく.

  1. 調和関数は平均値特性をもつことを示す.
  2. 平均値特性を持つRn\mathbb{R}^n上で定義された関数はCC^\infty級のみであることを示す.

以上の1と2を合わせることにより結果が得られる.
なお, ここで関数f:RnRf:\mathbb{R}^n\to\mathbb{R}が平均値特性を持つとは, 任意のaRna\in\mathbb{R}^nに対して,

f(a)=1SrB(a,r)f(x)rn1dΩf(a) = \frac{1}{S_r}\int_{\partial B(a, r)}f(x)r^{n-1}\mathrm{d}\Omega

が成立するということである. ただし, ここで, B(a,r)={xRnxar}B(a,r) = \{ x\in\mathbb{R}^n \mid \|x-a\| \le r \}, SrS_rは半径rrnn次元球の表面積である. またdΩ\mathrm{d}\Omegaは単位球面上の自然な測度である.(なんと説明したらいいかわからないから自然なといったが, いわゆる単位球面の微小部分の面積と呼ばれるものである.)

また, 実は1の主張は同値である. すなわち, 逆も言えのであるが, これは読者への演習問題ということにしておく. (下記の参考文献や調和関数について何かしら載っていそうな適当な本を読めば証明は載っているかと思う.)

1. 調和関数は平均値特性をもつこと

ここでは, 一般次元のガウスの発散定理をつかう. (ちなみに, 参考文献にあるように, 確率積分論を仮定してブラウン運動の回転不変性と伊藤の公式を使っても証明できる.) この定理を用いると, 調和関数ffに対して,

0=B(a,r)Δfdx=B(0,1)f(a+ry)rrn1dΩ(y)0 = \int_{B(a,r)}\Delta f dx = \int_{\partial B(0,1)}\frac{\partial f(a+ry)}{\partial r}r^{n-1}\mathrm{d}\Omega(y)

であるので,

rB(0,1)f(a+ry)dΩ(y)=0.\frac{\partial}{\partial r}\int_{\partial B(0,1)}f(a+ry) \mathrm{d}\Omega(y) = 0.

したがって,

B(a,r)fdΩ=const.\int_{\partial B(a, r)}f \mathrm{d}\Omega=const.

であるが,上式でr0r\to0とするとS1f(a)S_1f(a)に収束することから,

1SrB(a,r)frn1dΩ=f(a)\frac{1}{S_r}\int_{\partial B(a, r)}f r^{n-1}\mathrm{d}\Omega=f(a)

が成立する.

2. 平均値特性を持つRn\mathbb{R}^n上で定義された関数はCC^\infty級のみであること

最初に,

gϵ(x)={c(ϵ)exp[1x2ϵ2](x<ϵ),=0(xϵ),g_{\epsilon}(x) = \begin{cases} c(\epsilon)\exp\left[ \frac{1}{||x||^2-\epsilon^2}\right] &(||x||<\epsilon), \\ =0 &(||x||\ge \epsilon), \end{cases}

とおく.ただし, c(ϵ)c(\epsilon)は規格化定数で, gϵ(x)g_{\epsilon}(x)Rn\mathbb{R}^n全域で積分すると11になるようにするためのϵ\epsilonに依存する定数である.
ここで, aRna\in \mathbb{R}^n, 調和関数ffに対して,

fϵ(a)=Rnf(a+x)gϵ(x)dxf_\epsilon(a) = \int_{\mathbb{R}^n} f(a+x)g_\epsilon(x)\mathrm{d}x

とおくと, fϵ(x)f_\epsilon(x)CC^{\infty}級である. (つまり, gϵ(x)g_\epsilon(x)は軟化子と同じような働きをしている.)
このとき,

fϵ(a)=Bϵf(a+x)gϵ(x)dx=c(ϵ)0ϵρn1B(0,ρ)f(a+x)exp(1ρ2ϵ2)dΩdρ=c(ϵ)0ϵρn1f(a)exp(1ρ2ϵ2)dρ=f(a) \begin{aligned} f_\epsilon(a) &= \int_{B_\epsilon}f(a+x)g_\epsilon(x)\mathrm{d}x \\ &= c(\epsilon)\int^\epsilon_0\rho^{n-1}\int_{\partial B(0,\rho)}f(a+x)\exp(\frac{1}{\rho^2-\epsilon^2})d\Omega d\rho \\ &=c(\epsilon) \int^\epsilon_0 \rho^{n-1} f(a)\exp(\frac{1}{\rho^2-\epsilon^2})d\rho = f(a) \end{aligned}

となるので, fϵ(a)=f(a)f_\epsilon(a) = f(a)がわかる. fϵ(x)f_\epsilon(x)CC^{\infty}級であったので, f(a)f(a)CC^{\infty}級である.

参考文献

カラザス, I, シュレーブ, S.E.(2005)『ブラウン運動と確率積分』(渡邉 寿夫訳), シュプリンガー・フェアラーク東京.

コメント
2020/04/26 12:00

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こういうのでlatexのpackageつかうのどうやるんだ...うまくいかない.もうちょっとmarkdown形式に慣れたら清書します.←助言を得てきれいに出力できました. ありがとうございます.

2020/04/29 14:33

タイトルの数式も$で囲もうよ

2020/05/04 14:23

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囲んだら文字数オーバーになるかなって ← 文字数足りた