2020/10/24 19:28 更新
オイラーの公式と角の二等分線
目次

角度を単位円上の点として扱う幾何代数の技法によって、角の二等分線の性質を確認します。

クリフォード代数は使用しないで、複素平面上でオイラーの公式に基づく計算を行います。

※ 図は Markdown に SVG を直接記述しています。詳細はこちらをご参照ください。

前提知識

以下の記事で説明した技法を応用します。基本的な流れはほぼ同じです。

角の二等分線

図 1 A B C D

三角形 $△ABC$ を角 $A$ の二等分線によって分割します。辺 $AB$ と $AC$ の比は、二等分線によって分割された底辺 $BD$ と $DC$ の比と等しいです。

$$AB:AC=BD:DC$$

$A,B,C,D$ を複素平面上の点として、計算の便宜上 $A=0$ とします。比は以下のように表現されます。

$$\frac{|B|}{|C|}=\frac{|D-B|}{|C-D|}$$

これが成り立つことを確認します。

$D$ は辺 $BC$ を分割する点のため、以下の関係が成り立ちます。

$$|D-B|+|C-D|=|C-B|$$

両辺を $|C-B|$ で割ってパラメーター $t$ を定義します。

$$\underbrace{\frac{|D-B|}{|C-B|}}_{=:t}+\underbrace{\frac{|C-D|}{|C-B|}}_{1-t}=1$$

$D$ をパラメーター表示します。

$$D=(1-t)B+tC$$

※ $t=0$ のとき $D=B$、$t=1$ のとき $D=C$ となります。

点を正規化(絶対値で割ること)すれば単位円上の点となるため、オイラーの公式によって角度差が単位円上の点として表現されます。

$$e^{i∠BAD}=\frac{\overline B}{|B|}\frac{D}{|D|},\quad e^{i∠DAC}=\frac{\overline D}{|D|}\frac{C}{|C|}$$

$e^{i∠BAD}=e^{i∠DAC}$ を仮定して、左辺から右辺を引きます。

$$\begin{aligned} &\frac{\overline B}{|B|}\frac{D}{\cancel{|D|}}-\frac{\overline D}{\cancel{|D|}}\frac{C}{|C|}=0 \\ &\frac{\overline B}{|B|}\{(1-t)B+tC\}-\overline{\{(1-t)B+tC\}}\frac{C}{|C|}=0 \\ &(1-t)|B|+t\frac{\overline B}{|B|}C-(1-t)\overline B\frac{C}{|C|}-t|C|=0 \\ &(1-t)|B|-t|C|+\overline BC\left(\frac{t}{|B|}-\frac{1-t}{|C|}\right)=0 \\ &\{(1-t)|B|-t|C|\}+\frac{\overline BC}{|BC|}\{t|C|-(1-t)|B|\}=0 \\ &\{(1-t)|B|-t|C|\}\left(1-\frac{\overline BC}{|BC|}\right)=0 \\ &∴\begin{cases}\begin{aligned} (1-t)|B|&=t|C| & \cdots\ (1) \\ &\text{または} \\ \frac{B\overline C}{|BC|}&=1 & \cdots\ (2) \end{aligned}\end{cases} \end{aligned} \\$$

$(2)$ は $∠A=0$ の場合で $△ABC$ が潰れるため除外して、$(1)$ を整理します。

$$\begin{aligned} \frac{|B|}{|C|} &=\frac{t}{1-t} \\ &=\frac{|D-B|}{|C-B|}\frac{|C-B|}{|C-D|} \\ &=\frac{|D-B|}{|C-D|} \end{aligned}$$ 図 1 A B C D

よって、辺 $AB$ と $AC$ の比が、二等分線によって分割された底辺 $BD$ と $DC$ の比と等しいことが確認できました。

$$AB:AC=BD:DC$$

前提とした二等辺三角形の記事と基本的に同じ流れですが、パラメーターが入るため計算がやや複雑になっています。

※ パラメーター表示せずに絶対値の比のまま計算することもできますが、見通しが非常に悪くなります。

要点

図 2 A B C D

今回の要点を整理します。

まず $D$ を $B,C$ の線形結合で表します。

$$D=\frac{|C-D|}{|C-B|}B+\frac{|D-B|}{|C-B|}C$$

角の二等分から等式を立てれば、$B$ と $C$ の項の絶対値が等しいことが分かります。

$$\frac{\overline B}{|B|}\frac{D}{|D|}=\frac{\overline D}{|D|}\frac{C}{|C|} \ \Rightarrow\ \frac{|C-D|}{|C-B|}|B|=\frac{|D-B|}{|C-B|}|C|$$

途中の計算はやや混み入っていますが、$D$ と結果の対応は分かりやすいです。

長さ

二等分線の長さを計算します。絶対値を 2 乗して、複素共役との積の形で計算を進めます。

$$\begin{aligned} |D|^2 &=D\overline D \\ &=\left\{(1-t)B+tC\right\}\overline{\left\{(1-t)B+tC\right\}} \\ &=(1-t)^2|B|^2+t(1-t)(B\overline C+C\overline B)+t^2|C|^2 &\cdots\ (3) \end{aligned}$$

$B\overline C+C\overline B$ を置き換えるため、底辺の長さの 2 乗を計算します。これは余弦定理に相当します。

$$\begin{aligned} |B-C|^2 &=(B-C)\overline{(B-C)} \\ &=|B|^2-B\overline C-C\overline B+|C|^2 \\ ∴B\overline C+C\overline B&=|B|^2+|C|^2-|B-C|^2 &\cdots\ (4) \end{aligned}$$

$(3)$ に $(4)$ を代入します。

$$\begin{aligned} |D|^2 &=(1-t)^2|B|^2+t(1-t)(|B|^2+|C|^2-|B-C|^2)+t^2|C|^2 \\ &=(1-t)|B|^2+t|C|^2-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=t|B||C|+(1-t)|B||C|-t(1-t)|B-C|^2 &\because(1) \\ &=|B||C|-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=|B||C|-\frac{|D-B|}{|C-B|}\frac{|C-D|}{|C-B|}|B-C|^2 \\ &=|B||C|-|D-B||C-D| \end{aligned}$$

かなりすっきりした形になりました。

図 1 A B C D

$∠A$ の二等分線 $AD$ の長さは、辺 $AB,AC$ と $D$ によって分割された底辺 $BD,DC$ で表されます。

$$(AD)^2=AB×AC-BD×DC$$

これを以下のように書けば、2 つの三角形 $△ABD,△ACD$ によってピタゴラスの定理に似た関係が形成されていると解釈できます。

$$AB×AC=AD×AD+BD×DC$$

$AB=AC$ のとき $△ABC$ は二等辺三角形となり、$D$ は 辺 $BC$ の中点となるため $BD=DC$ となります。このとき上の式はピタゴラスの定理となります。

$$(AB)^2=(AD)^2+(BD)^2$$

補足

$A=0$ としなかった場合の式変形です。

$$\begin{aligned} D-A=(1-t)(B-A)+t(C-A) \end{aligned} \\ \begin{aligned} &\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}\frac{(D-A)}{\cancel{|D-A|}}-\frac{\overline{(D-A)}}{\cancel{|D-A|}}\frac{(C-A)}{|C-A|}=0 \\ &\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}(D-A)-\overline{(D-A)}\frac{(C-A)}{|C-A|}=0 \\ &\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\}-\overline{\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\}}\frac{(C-A)}{|C-A|}=0 \\ &(1-t)|B-A|+t\frac{\overline{(B-A)}}{|B-A|}(C-A)-(1-t)\overline{(B-A)}\frac{(C-A)}{|C-A|}-t|C-A|=0 \\ &(1-t)|B-A|-t|C-A|+\overline{(B-A)}(C-A)\left(\frac{t}{|B-A|}-\frac{1-t}{|C-A|}\right)=0 \\ &\{(1-t)|B-A|-t|C-A|\}+\frac{\overline{B-A}}{|B-A|}\frac{C-A}{|C-A|}\{t|C-A|-(1-t)|B-A|\}=0 \\ &\{(1-t)|B-A|-t|C-A|\}\left(1-\frac{\overline{B-A}}{|B-A|}\frac{C-A}{|C-A|}\right)=0 \\ &\therefore (1-t)|B-A|=t|C-A| \end{aligned}$$

二等分線の長さの計算です。

$$\begin{aligned} &|D-A|^2 \\ &=(D-A)\overline{(D-A)} \\ &=\left\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\right\}\overline{\left\{(1-t)(B-A)+t(C-A)\right\}} \\ &=(1-t)^2|B-A|^2+t(1-t)\{(B-A)\overline{(C-A)}+(C-A)\overline{(B-A)}\}+t^2|C-A|^2 \\ &=(1-t)^2|B-A|^2+t(1-t)\{|B-A|^2+|C-A|^2-|B-C|^2\}+t^2|C-A|^2 \\ &=(1-t)|B-A|^2+t|C-A|^2-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=t|B-A||C-A|+(1-t)|B-A||C-A|-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=|B-A||C-A|-t(1-t)|B-C|^2 \\ &=|B-A||C-A|-\frac{|D-B|}{|C-B|}\frac{|C-D|}{|C-B|}|B-C|^2 \\ &=|B-A||C-A|-|D-B||C-D| \end{aligned}$$

以下の結果を使っています。

$$\begin{aligned} |B-C|^2 &=|(B-A)-(C-A)|^2 \\ &=\{(B-A)-(C-A)\}\overline{\{(B-A)-(C-A)\}} \\ &=|B-A|^2-(B-A)\overline{(C-A)}-(C-A)\overline{(B-A)}+|C-A|^2 \\ \end{aligned} \\ ∴(B-A)\overline{(C-A)}-(C-A)\overline{(B-A)}=|B-A|^2+|C-A|^2-|B-C|^2$$

関連記事

今回の記事の結果を応用して、シュタイナー・レームスの定理の証明を試みました。ただし主要な部分は実数の計算になるため、あまり独自性はありませんでした。

同様の手法で円周角の定理を確認します。

参考