あらすじ
県下一のエンパイア高校に進学できなかった大野田春道は数学世界選手権の日本代表になるという目標を見据え,ブレることなく日々数学の問題に取り組んでいる.
そんな中,ハルミチが通う高校の美術を担当する境九三に出会い,彼が主催する数選対策講座に参加することとなる.
今回紹介するのは,エンパイア高校の数学研究部との合同研究会の参加資格を賭けた選抜試験の中でハルミチが取り組んだ問題である.
※ 原作に出てきた問題の数字をほんの少し変更しただけの類題です.
問題
多項式 $(x+1)^2(x+2)^3(x+3)^4$ の $x^k$ の係数を $a_k$ とおくとき,$a_2+a_4+a_6+a_8$ の値を求めよ.
元ネタ
2013 年日本数学オリンピック (JMO) 予選,問題 4.
解答
原作でハルイチ君が採用した「最速アプローチ」が大ヒントとなりました.そういう意味で,ここに示した解答はハルイチ君の答案の再現になります.
与えられた多項式を $P(x):=(x+1)^2(x+2)^3(x+3)^4$ とおく.これは $x$ の 9 次式であるから,
$$P(x)=a_0+a_1x+a_2x^2+\cdots+a_8x^8+a_9x^9$$と表せる.ここで,$x$ に $-x$ を代入すると,$k$ が偶数ならば $(-x)^k=x^k$,
$k$ が奇数ならば $(-x)^k=-x^k$ となるから,$P(x)+P(-x)$ において $x$ の奇数次の項は打ち消し合い,
となる.ここで $x=1$ を代入し,$P(-1)=0$,$a_0=P(0)$ に注意すると,
$$\begin{aligned} a_2+a_4+a_6+a_8&=\frac{1}{2}(P(1)+P(-1))-P(0)\\ &=\frac{1}{2}(2^2\cdot 3^3\cdot 4^4+0)-1^2\cdot 2^3\cdot 3^4\\ &=2^2\cdot 3^3\cdot 2\cdot 4^3-2^3\cdot 3^4\\ &=6^3(4^3-3)\\ &=216\times 61\\ &=13176 \end{aligned}$$を得る.$\Box$
コメント:この問題は展開して係数を読み取って和を求めるというごり押しの直接解法も可能である.そのようなアプローチをとる際はなるべく要領よく展開するよう心掛ける必要があるだろう.そのごり押し計算は数式処理ソフト Maxima で実行し,上で示した和の値が正しいことを確認した.
今回は個々の係数 $a_k$ を具体的に求める必要はなく,偶数次の係数の和のみが分かりさえすればよい.そう考えると,このような数値代入法を主眼に据えた「最速アプローチ」が見えてくる.とはいえ,ここで用いた手法はこの手の問題では標準的な必須手法であるといえよう.ただし,偶数次の係数のうち,$a_0$ の扱いをどうするかという細やかな心配りも欠かせない.
参考文献
藏丸竜彦,数学ゴールデン 2,白泉社 (2021).