2020/12/12 13:30 更新
2次体の整数環 (2) —整数環の定義
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「2次体の整数環」の第2回です.
本記事では整数環の定義と最も基本的な整数環であるQ\mathbb{Q}の整数環を調べます.このことを通して「整数環」という言葉の妥当性を把握してもらえるかと思います.

整数環

定義 2.1.1

(1) Q\mathbb{Q}の有限次拡大体のことを 代数体 または 代数的数体 (algebraic number field) という.
特にQ\mathbb{Q}dd次拡大体のことを dd次体 (degree dd field) という.
(2) C\mathbb{C}におけるZ\mathbb{Z}の整閉包を 代数的整数環 (algebraic integer ring) という.
特に代数体KKにおけるZ\mathbb{Z}の整閉包を KKの整数環 (integer ring) という.

注意 2.1.2

(1) K=Q(2)K = \mathbb{Q}(\sqrt{2})Q\mathbb{Q}の2次拡大なのでKKは2次体です.もちろんQ\mathbb{Q}も代数体です.

(2) 多く,代数体KKの整数環はOK\mathcal{O}_Kと書かれます.このOK\mathcal{O}_Kは代数的整数環Ω\Omegaの元であってKKの元であるものと考えることができます.つまり,次が成立します:

OK=ΩK.\mathcal{O}_K = \Omega \cap K.
例 2.1.3 (OQ\mathcal{O}_\mathbb{Q}の決定)

最も簡単な代数体であるQ\mathbb{Q}の整数環OQ\mathcal{O}_{\mathbb{Q}}を特定します.
定義 2.1.1を反芻するとOQ\mathcal{O}_{\mathbb{Q}}とはQ\mathbb{Q}の元であってZ\mathbb{Z}上整な元全体の集合でした.

まずZ\mathbb{Z}の元kkは必ずxkx-kという多項式の根になります.
したがって,ZOQ\mathbb{Z} \subseteq \mathcal{O}_{\mathbb{Q}}が成り立ちます.

逆にaQa \in \mathbb{Q}Z\mathbb{Z}上整であるとします.つまりaOQa \in \mathcal{O}_{\mathbb{Q}}とします.
一般の有理数は二つの整数による既約分数の形で書き表されますから,aab,cZb,c \in \mathbb{Z}を用いてa=b/ca = b/cと表されます.但し簡略化のためにc>0c > 0で,bbccは互いに素であるとします.
aaZ\mathbb{Z}上整でしたから,

d1,,dnZ,  an+d1an1++dn1a+dn=0\exists d_1,\dots,d_n \in \mathbb{Z}, \; a^n + d_1a^{n-1} + \cdots + d_{n-1}a + d_n = 0

です.ここにa=b/ca = b/cを代入し両辺をcnc^n倍して分母を払うと

bn+d1bn1c++dn1bcn1+dncn=0b^n + d_1b^{n-1}c + \cdots + d_{n-1}bc^{n-1} + d_nc^n = 0

となります.

ここでc1c \neq 1としてみます.すると上の式の両辺をccで割ってみると

bn0(modc)b^n \equiv 0 \pmod{c}

となり,bbccは互いに素ではなくなります.
これは前提と矛盾するため,c=1c = 1とならざるを得ません.
したがって,a=bZa = b \in \mathbb{Z}となり,OQZ\mathcal{O}_{\mathbb{Q}} \subseteq \mathbb{Z}と分かります.

以上のことから,OQ=Z\mathcal{O}_{\mathbb{Q}} = \mathbb{Z}となります.

つまり「有理数体の整数環は整数全体の集合」ということになります.
このようにしてみると定義 2.1.1で定めた「整数環」という概念は我々が一度は触れたことのある整数のある種の拡張になっていると考えることができます.
なお,この意味でZ\mathbb{Z}のことを「有理整数環」と呼ぶこともあります.

実はほぼ同じ流れで「AAが一意分解整域であればAAの分数体におけるAAの整閉包がAAになる」というより一般的な事実が示されます.この「AAの分数体におけるAAの整閉包がAAになる」という性質を満たす整域AA整閉整域 (integrally closed ring) または 正規環 (normal ring) といいます.

命題 2.1.4

AAが一意分解整域ならばAAは整閉整域である.

まとめ

(1) 整数環とはある代数体の中でZ\mathbb{Z}上整である元を集めてきたもの
(2) Q\mathbb{Q}の整数環はZ\mathbb{Z}になる

参考文献

1: 整数論1 初等整数論からpp進数へ.雪江明彦 著.