「2次体の整数環」の第2回です.
本記事では整数環の定義と最も基本的な整数環であるQの整数環を調べます.このことを通して「整数環」という言葉の妥当性を把握してもらえるかと思います.
整数環
(1) Qの有限次拡大体のことを 代数体 または 代数的数体 (algebraic number field) という.
特にQのd次拡大体のことを d次体 (degree d field) という.
(2) CにおけるZの整閉包を 代数的整数環 (algebraic integer ring) という.
特に代数体KにおけるZの整閉包を Kの整数環 (integer ring) という.
注意 2.1.2
(1) K=Q(2)はQの2次拡大なのでKは2次体です.もちろんQも代数体です.
(2) 多く,代数体Kの整数環はOKと書かれます.このOKは代数的整数環Ωの元であってKの元であるものと考えることができます.つまり,次が成立します:
OK=Ω∩K.例 2.1.3 (OQの決定)
最も簡単な代数体であるQの整数環OQを特定します.
定義 2.1.1を反芻するとOQとはQの元であってZ上整な元全体の集合でした.
まずZの元kは必ずx−kという多項式の根になります.
したがって,Z⊆OQが成り立ちます.
逆にa∈QをZ上整であるとします.つまりa∈OQとします.
一般の有理数は二つの整数による既約分数の形で書き表されますから,aもb,c∈Zを用いてa=b/cと表されます.但し簡略化のためにc>0で,bとcは互いに素であるとします.
aはZ上整でしたから,
∃d1,…,dn∈Z,an+d1an−1+⋯+dn−1a+dn=0です.ここにa=b/cを代入し両辺をcn倍して分母を払うと
bn+d1bn−1c+⋯+dn−1bcn−1+dncn=0となります.
ここでc=1としてみます.すると上の式の両辺をcで割ってみると
bn≡0(modc)となり,bとcは互いに素ではなくなります.
これは前提と矛盾するため,c=1とならざるを得ません.
したがって,a=b∈Zとなり,OQ⊆Zと分かります.
以上のことから,OQ=Zとなります.
終
つまり「有理数体の整数環は整数全体の集合」ということになります.
このようにしてみると定義 2.1.1で定めた「整数環」という概念は我々が一度は触れたことのある整数のある種の拡張になっていると考えることができます.
なお,この意味でZのことを「有理整数環」と呼ぶこともあります.
実はほぼ同じ流れで「Aが一意分解整域であればAの分数体におけるAの整閉包がAになる」というより一般的な事実が示されます.この「Aの分数体におけるAの整閉包がAになる」という性質を満たす整域Aを 整閉整域 (integrally closed ring) または 正規環 (normal ring) といいます.
Aが一意分解整域ならばAは整閉整域である.
まとめ
(1) 整数環とはある代数体の中でZ上整である元を集めてきたもの
(2) Qの整数環はZになる
参考文献
1: 整数論1 初等整数論からp進数へ.雪江明彦 著.