2020/12/15 12:15 更新
2次体の整数環 (4) —Gauss整数環とEisenstein整数環
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第3回では2次体$K=\mathbb{Q}(\sqrt{d})$の整数環$\mathcal{O}_K$の構造を決定しました (定理 3.3.1).第4回となる本記事では2次体の整数環の中でもお行儀が良いものの例を二つ挙げます.具体的にはEuclid整域になる2次体の整数環の例を挙げます.

Gauss整数環

定義 4.1.1

$K=\mathbb{Q}(\sqrt{-1})$の整数環である$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$を Gauss整数環 と呼ぶ.

複素平面上にGauss整数環$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の点をプロットすると図のように綺麗な正方形の格子構造を持ちます.

命題 4.1.2

Gauss整数環はEuclid整域である.

証明.
Euclid整域であることをいうために賦値関数$d$を

$$d \colon \begin{array}{ccc} \mathbb{Z}[\sqrt{-1}] \setminus \{0\} & \longrightarrow & \mathbb{N}\\ \\ a + b \sqrt{-1} & \longmapsto & a^2 + b^2 \end{array}$$

で定める.これは$\operatorname{N}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}}$と一致する.

$x,y \in \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$を$y \neq 0$を満たす任意の元の組とする.

$x/y \in \mathbb{Q}(\sqrt{-1})$は複素平面上でいずれかの4つの格子点によって構成される大きさ1の正方形の内部および周上に含まれる.この正方形の内部および周上で格子点からEuclid距離で最も離れた位置にある点は対角線の中点で,そのときの距離は$\sqrt{2}/2$である.

よって,$x/y \in \mathbb{Q}(\sqrt{-1})$についてある$z \in \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$が存在して,

$$\left\Vert \frac{x}{y} - z\right\Vert_2^2 = d \left( \frac{x}{y} - z \right) < \frac{1}{2} < 1.$$

両辺を$\left\Vert y \right\Vert_2^2$倍すると

$$\left\Vert x - yz \right\Vert_2^2 = d \left( x - yz \right) < \left\Vert y \right\Vert_2^2 = d(y).$$

これより,$d$は賦値関数となり$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$はEuclid整域である.

証明終.

次に$\mathbb{Z}$の素元 (素数) が$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$上でも素元になるかを調べます.このような「素イデアルが環の拡大とともにどのように変化するか」という問題は代数的整数論では非常に興味深い問題となっています.

命題 4.1.3

$p \in \mathbb{Z}$を素数とする.
$p$が$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の素元 $\iff$ $p \equiv 3 \pmod{4}$.

証明.
$p$が$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$上で生成するイデアル$(p)$が素イデアルであるかどうかを考えればよい.

$$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]/(p) \cong \mathbb{Z}[x]/(x^2 + 1, p) \cong \mathbb{F}_p[x]/(x^2 + 1).$$

よって,$\mathbb{F}_p[x]$上で素元と既約元が一致することに気を付けると,

$(p) \subseteq \mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$が素イデアル $\iff$ $x^2+1$が$\mathbb{F}_p$上の既約多項式

$x^2+1$は2次多項式なので,これが既約ということは次と同値:

どんな$a \in \mathbb{F}_p$も$a^2+ 1 \neq 0$である

これは次の補題 4.1.4から$p \equiv 3 \pmod{4}$と同値である.

証明終
補題 4.1.4

ある$a \in \mathbb{F}_p$が存在して$a^2 + 1 = 0$ $\iff$ $p = 2$または$p \equiv 1 \pmod{4}$

証明.
$p = 2$のときは$a = 1$が$a^2 + 1 = 0$を満たす.以下$p \neq 2$とする.

ある$a \in \mathbb{F}_p$が存在して$a^2 + 1 = 0$となるならば$a^4 = 1$である.$p \neq 2$ならば$a, a^2, a^3 \neq 1$であるから$\mathbb{F}_p^{\times}$は位数4の元を持つ.したがって,位数$\lvert \mathbb{F}_p^{\times} \rvert = p-1$は4の倍数となる (Lagrangeの定理).よって$p \equiv 1 \pmod{4}$である.

逆に$p \equiv 1 \pmod{4}$のとき,巡回群$\mathbb{F}_p^{\times}$の位数は$4k$ ($k \in \mathbb{N}_{>0}$) である.$\mathbb{F}_p^{\times}$の生成元を$g \in \mathbb{F}_p^{\times}$とおく.$x^4 - 1 \in \mathbb{F}_p[x]$は解$g^k, g^{2k}, g^{3k}, g^{4k} = 1$をもつ.いま,$x^4 - 1 = (x^2 - 1)(x^2 + 1)$という分解は$p \neq 2$のとき異なる多項式への分解となっていて,$g^k$は$x^2-1$の根ではない.したがって,$g^k$は$x^2 + 1$の根であり,$g^{2k} = -1$となる.

証明終

したがって,$p \equiv 1,2 \pmod{4}$なる素数は$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$では素元ではなくなってしまい,2つ以上の素元に分解できるということになります

例 4.1.5

(1) 素数$2$は$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の元としては$2 = (1 + \sqrt{-1})(1 - \sqrt{-1})$と素元の積に分解できる.

$1 \pm \sqrt{-1}$が素元であるという事実は命題4.1.3の証明と同じように素イデアルを考えても可能ですが,ノルムを用いても証明できます.そこでここではノルムを用いた証明を記します.
$1 \pm \sqrt{-1}$が単元でない2個の元$a,b$に分解できたとします.$1 \pm \sqrt{-1} = ab$の両辺のノルムをとると,

$$2 = \operatorname{N}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}}(a) \operatorname{N}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}}(b)$$

となります.$a,b$は$\mathbb{Q}(\sqrt{-1})$の整数環の元で,$\mathbb{Z}$は整閉整域ですから,ノルムは整数になります.
つまり,上の等式は整数としての分解を表すことになります.
また,具体的に書き下せば$\operatorname{N}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}}(a), \operatorname{N}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-1})/\mathbb{Q}}(b) \ge 0$であることは分かるので,ノルムの一方は1に等しくなります.そしてノルムが1に等しい元は単元となります.
すると,これは初めに$a,b$はどちらも単元でないとしたことに矛盾してしまいます.
よって$1 \pm \sqrt{-1}$は素元であると分かります.

(2) 素数$5$は$\mathbb{Z}[\sqrt{-1}]$の元としては$5 = (2 + \sqrt{-1})(2 - \sqrt{-1})$と2つの素元の積の形に書ける.


Eisenstein整数環

定義 4.2.1

$K = \mathbb{Q}(\sqrt{-3})$の整数環である$\mathbb{Z}\left[ \dfrac{1 + \sqrt{-3}}{2} \right]$を Eisenstein整数環 という.

複素平面上にEisenstein整数環$\mathbb{Z}\left[ \dfrac{1+\sqrt{-3}}{2} \right]$の点をプロットすると図のように綺麗な正三角形の格子構造を持ちます.

ここで$\omega = \dfrac{-1 + \sqrt{-3}}{2}$とおくと$\mathbb{Z}\left[ \dfrac{1+\sqrt{-3}}{2} \right] = \mathbb{Z}[\omega]$とEisenstein整数環を別の形で表すことができます.$\omega$は1の3乗根なのでこの方が理解しやすい人もいるかもしれません.

命題 4.2.2

Eisenstein整数環はEuclid整域である.

証明.
Gauss整数環のときと同じ流れで示せる.賦値関数を

$$d \colon \begin{array}{ccc} \mathbb{Z}[\omega] \setminus \{0\} & \longrightarrow & \mathbb{N}\\ \\ a + b \dfrac{1+\sqrt{3}}{2} & \longmapsto & a^2 + ab + b^2 \end{array}$$

で定める.これは$\operatorname{N}_{\mathbb{Q}(\sqrt{-3})/\mathbb{Q}}$と一致し,点$(a+b/2, \sqrt{3}b/2)$のEuclid距離の平方にも一致する.

$x,y \in \mathbb{Z}[\omega]$を$y \neq 0$を満たす任意の元の組とする.

$x/y \in \mathbb{Q}(\sqrt{-3})$は複素平面上でいずれかの3つの格子点によって構成される一辺1の正三角形の内部および周上に含まれる.この正三角形の内部および周上で格子点からEuclid距離で最も離れた位置にある点は三角形の外心で,そのときの距離は$\sqrt{3}/3$である.

よって,$x/y \in \mathbb{Q}(\sqrt{-3})$についてある$z \in \mathbb{Z}[\omega]$が存在して,

$$\left\Vert \frac{x}{y} - z\right\Vert_2^2 = d \left( \frac{x}{y} - z \right) < \frac{1}{3} < 1.$$

両辺を$\left\Vert y \right\Vert_2^2$倍すると

$$\left\Vert x - yz \right\Vert_2^2 = d \left( x - yz \right) < \left\Vert y \right\Vert_2^2 = d(y).$$

これより,$d$は賦値関数となり$\mathbb{Z}[\omega]$はEuclid整域である.

証明終

次に$\mathbb{Z}$の素元 (素数) が$\mathbb{Z}[\omega]$上でも素元になるかを調べます.

命題 4.2.3

$p \in \mathbb{Z}$を素数とする.
$p$が$\mathbb{Z}[\omega]$の素元 $\iff$ $p \equiv 2 \pmod{3}$.

証明.
$p$が$\mathbb{Z}[\omega]$上で生成するイデアル$(p)$が素イデアルであるかどうかを考えればよい.

$$\mathbb{Z}[\omega]/(p) \cong \mathbb{Z}[x]/(x^2 + x + 1, p) \cong \mathbb{F}_p[x]/(x^2 + x + 1).$$

したがって,$\mathbb{F}_p[x]$上で素元と既約元が一致することに気を付けると,

$(p) \subseteq \mathbb{Z}[\omega]$が素イデアル $\iff$ どんな$a \in \mathbb{F}_p$も$a^2+a+1 \neq 0$である

これは次の補題 4.2.4から$p \equiv 2 \pmod{3}$と同値である.

証明終
補題 4.2.4

ある$a \in \mathbb{F}_p$が存在して$a^2 + a + 1 = 0$ $\iff$ $p = 3$または$p \equiv 1 \pmod{3}$

証明.
$p = 3$のときは$a = 1$が$a^2 + a + 1 = 0$を満たす.以下,$p \neq 3$とする.

$a = 1$は$a^2+a+1$の根でないから$a^2 + a + 1 = 0 \iff a^3 = 1$.したがって,位数$\lvert \mathbb{F}_p^{\times} \rvert = p-1$は3の倍数となる.よって$p \equiv 1 \pmod{3}$である.

逆に$p \equiv 1 \pmod{3}$のとき,巡回群$\mathbb{F}_p^{\times}$の位数は$3k$ ($k \in \mathbb{N}_{>0}$) である.$\mathbb{F}_p^{\times}$の生成元を$g \in \mathbb{F}_p^{\times}$とおく.$x^3 - 1 \in \mathbb{F}_p[x]$は解$g^k, g^{2k}, g^{3k} = 1$をもつ.いま,$x^3 - 1 = (x - 1)(x^2 + x + 1)$という分解があって$g^k$は$x-1$の根ではない.したがって,$a = g^k$は$x^2 + x + 1$の根であり,$a^{2} + a + 1 = 0$となる.

証明終

したがって,$p \equiv 0, 1 \pmod{3}$なる素数は$\mathbb{Z}[\omega]$では素元ではなくなってしまい,2つ以上の素元に分解できます

例 4.2.5

(1) 素数$3$は$\mathbb{Z}[\omega]$の元としては$3 = (2 + \omega)(1 - \omega)$と2つの素元の積の形に書ける.
(2) 素数$7$は$\mathbb{Z}[\omega]$の元としては$7 = (3 + \omega)(2 - \omega)$と2つの素元の積の形に書ける.

まとめ

(1) 2次体の整数環の例であるGauss整数環とEisenstein整数環はいずれもEuclid整域である.その際の賦値関数は複素平面上での距離の平方やノルムに一致していた.
(2) 環の拡大によって素数はもはや素元にならないことがある

ちなみに(1)のようにノルムによってEuclid整域になるような整数環は21個しかなく,そのうち$d < 0$の例は$d = -1, -2, -3, -7, -11$の5個しかないようです.

参考文献

1: 整数論1 初等整数論から$p$進数へ.雪江明彦 著.