2020/11/26 10:16 更新
Mikusinskiの演算子法(その4)演算子の導入とその性質
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目次

前提知識

その3の続きです.$C$を局所化して商体$\mathbb{O}$を構成し,その元である演算子にどのようなものがあるかを見ます.

演算子

$C$は非単位的可換環ではあるが,整域であることから,その「局所化」を考たい.

定義$C\times(C\backslash\{0\})$の元$(a_1,b_1),\,(a_2,b_2)$に対して,$(a_1,b_1)\sim(a_2,b_2)\overset{\mathrm{def}}{\Leftrightarrow}a_1b_2-a_2b_1=0$によって関係を定めると,演算子法(その3)のTitchmarshの定理からこれは同値関係である.
$(a,b)$の同値類を$\frac{a}{b}$と表す.$\mathbb{O}:=C\times(C\backslash\{0\})/\sim$に次の演算を入れる.

  • (和)

    $$\frac{a_1}{b_1}+\frac{a_2}{b_2}:=\frac{a_1b_2+a_2b_1}{b_1b_2}$$
  • (積)

    $$\left(\frac{a_1}{b_1}\right)\left(\frac{a_2}{b_2}\right):=\frac{a_1a_2}{b_1b_2}$$

このとき,次の命題が成り立つ.

命題1 $I:=\left<1\right>$とする.$\mathbb{O}$は積の単位元として$e:=\frac{I}{I}$を,零元として$0:=\frac{\left<0\right>}{e}=\frac{\left<0\right>}{I}$を持つ体であり,自然な写像$\pi\colon C\ni{x}\mapsto{\frac{x}{e}=\frac{xI}{I}}\in\mathbb{O}$は単射準同型である.つまり,$C$は$\mathbb{O}$の(非単位的)部分環とみなせる.

proof. $e$が積の単位元であることと,$\pi$が単射準同型であることを確認する.

$\mathbb{O}$の任意元$\frac{a}{b}(a,b\in C,b\neq0)$に対して,

$$e\frac{a}{b}=\frac{a}{b}e=\frac{aI}{bI}=\frac{a}{b}$$

$\pi(xy)=\pi(x)\pi(y)$は明らか.

$$\pi(x)+\pi(y)=\frac{x}{e}+\frac{y}{e}=\frac{xI+yI}{I}=\frac{(x+y)I}{I}=\pi(x+y)$$

単射であることは,$\frac{xI}{I}=\frac{\left<0\right>}{I}$から,$xI^2=0$となるが,$C$は整域だから,$x=0$であることから$\mathrm{Ker}\pi=\{0\}$

※$C$を$\mathbb{O}$の(非単位的)部分環とみなせるというのは,ここでは$\mathbb{O}$の部分環$\mathrm{Im}\pi$が$C$と全く同じ演算構造を持っていることを強調している.この同一視によって$\pi(x)=\frac{x}{e}$を単に$x$と表記する.
また,上のようにして$C$から構成された体$\mathbb{O}$を$C$の商体と呼ぶ.


※Diracのデルタ関数$\delta(x)$は

$$\int_{-\infty}^\infty f(x)\delta(x-t)\mathrm{d}x=f(t)$$

となるような超関数として知られている.
演算子法(その2)で述べた通り,$\mathbb{O}$の単位元$e$はクラス$C$関数ではない.$e$の積分に対する性質から,実はDiracのデルタ関数に相当することがわかる.
このように,$\mathbb{O}$は関数とは言い難いものを元に持つので,それらを「演算子」と呼ぶ.

演算子の性質

例1(積分演算子)$f\in{C}$に対して$I:=\left<1\right>$をかけると,

$$If=\int_0^tf(u)\mathrm{d}u$$

となる.このことから,$I$を積分演算子と呼ぶ.

積分演算子の累乗$I^n\,(n>0)$は

$$I^n=\left<\frac{t^{(n-1)}}{(n-1)!}\right>$$

となる.

\

例2(数演算子)$a\in{\mathbb{C}}$に対して,$[a]:=\frac{\left<a\right>}{\left<1\right>}$の形の演算子を数演算子といい,次の性質を満たす:

  1. $[a]+[b]=[a+b]$

  2. $[a][b]=[ab]$

  3. $$[a]\frac{\left<f(t)\right>}{\left<g(t)\right>}=\frac{\left<af(t)\right>}{\left<g(t)\right>}$$

数演算子はその性質から,複素数と同一視できるので,$[a]$を$a$と表してもよい.

なお,数演算子と定数関数は演算の仕方が異なるため,明確に区別する必要がある.例えば,$[2][5]=[10]$だが,$\left<2\right>\left<5\right>=[2][5]I^2=[10]\left<t\right>=\left<10t\right>$である.



例3(微分演算子)

$$D:=I^{-1}$$

という演算子は積分演算子の逆元を考える.これは次の意味で微分に相当する演算子であるといえる:

命題2$f$を$[0,\infty)$で$C^1$級の関数とする.このとき,

$$Df=\left<f'(t)\right>+f(0)\,(=\left<f'(t)\right>+[f(0)])$$

である.

定数項が残るが,その代わりに微分演算子と積分演算子が交換可能であることはメリットといえる.

この命題から以下の微分演算子の重要な性質が示される.

  1. $$\left<f^{(n)}(t)\right>=D^nf-D^{n-1}[f(0)]-...D[f^{(n-2)}(0)]-[f^{(n-1)}(0)]\\ =D^nf-\sum_0^{n-1}D^i[f^{(n-1-i)}(0)]$$
  2. $$\frac{1}{(D-a)^n}=\left<\frac{t^{n-1}}{(n-1)!}e^{at}\right>\,(n>0)$$これらの性質は微分方程式を解く際に直接使える.