2021/03/05 11:18 更新
異なる3つの実数解を持つ3次方程式の解法
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目次

はじめに

3次方程式の解の公式としてCardanoの公式というものが知られていますが,それを異なる3つの実数解を持つような3次方程式に適用すると,ちょっと引っかかる部分があります.今回はその部分を複素関数としての三角関数を利用して解決し,このような場合の解の公式を書き下します.最後にこの場合の解の公式を高校数学の範囲で理解できる方法でも導出してみます.

前提知識

  • 定義域を複素数全体に拡張した三角関数 (特にコサイン)
  • コサインの3倍角の公式

標準形

本記事では3次方程式$ax^3 + bx^2 +cx +d = 0$ ($a,b,c,d \in \mathbb{R}$, $a \neq 0$) の代わりにもう少し扱いやすい$x^3 + px + q = 0$ ($p,q \in \mathbb{R}$) という形のものだけを考えます.本記事ではこの形を「3次方程式の標準形」と呼ぶことにします.

次の補題 1.1のように,一般の3次方程式は標準形に変形することができます.

補題 1.1

3次方程式$ax^3 + bx^2 +cx +d = 0$は等価な標準形をもつ.

証明
$a \neq 0$で両辺を割って,$y = x + b/3a$とおくと

$$y^3 + \frac{3ac - b^2}{3a^2} y + \frac{27a^2d - 9abc + 2b^3}{27a^3} = 0$$

と変形される.これは標準形になっている.■


この補題を踏まえ,以下では標準形に絞って3次方程式の解法を考えます.

Cardanoの方針

3次方程式が異なる3つの実数解を持つ条件

3次方程式を解く前に,3次方程式$x^3 + px + q = 0$が異なる3つの実数解を持つ条件を調べておきましょう.

命題 2.1

$f(x) = x^3 + px + q$とおく.$f(x) = 0$となる異なる実数$x$が3個存在するための必要十分条件は

$$\frac{q^2}{4} + \frac{p^3}{27} < 0.$$

証明
$f(x) = x^3 + px + q$,$f^{\prime}(x) = 3 \left( x^2 + \dfrac{p}{3} \right)$である.これより$p \ge 0$ならば$f(x)$は単調な関数となり,特に$f(x) = 0$となるような$x$はただ1つ.

以下では$p < 0$として$\pi := -p > 0$とおく.停留点$x = - \sqrt{\pi/3}, \sqrt{\pi/3}$ではそれぞれ

$$\begin{aligned} f \left(\pm \sqrt{\frac{\pi}{3}} \right) = \mp 2 \sqrt{\frac{\pi^3}{27} }+ q, \end{aligned}$$

(ただし複号は同順にとる.)となるから,$f(x) = 0$となる異なる実数$x$が3つ存在するための必要十分条件は

$$\begin{aligned} 0 > f\left( \sqrt{\frac{\pi}{3}} \right) f\left(- \sqrt{\frac{\pi}{3}} \right) = 4 \left( \frac{q^2}{4} + \frac{p^{3}}{27} \right) \end{aligned}$$

である.■


この命題より,以下では$q^2/4 + p^3/27 < 0$であるような$p$と$q$だけにスポットを当てて話を進めます.なお,このときは$p < 0$となることを注意します.

Cardanoの方針による求解

Cardanoの方針に沿って$x^3 + px + q = 0$を解いていきましょう.ただし,前節で述べたように$q^2/4 + p^3/27 < 0$であるとします.

まず$x = u+v$というように1つの値$x$を2つの値$u,v$でパラメタライズします.すると,どんな$u$と$v$に対しても$x = u+v$とおけば$x^3 + px + q = 0$が成り立つはずですから,

$$\begin{aligned} &u^3 + v^3 = -q, \\ &uv = - \frac{p}{3} \end{aligned}$$

が成り立つ必要があります.したがって$u^3$と$v^3$は次の$t$に関する2次方程式の解となります.

$$t^2 + qt - \frac{p^3}{27} = 0.$$

この2次方程式を解の公式で解けば,$q^2/4 + p^3/27 < 0$に注意することで,

$$t = - \frac{q}{2} \pm \mathrm{i} \sqrt{ \left| \frac{q^2}{4} + \frac{p^3}{27} \right|} $$

を得ます.なお,$\mathrm{i} \coloneqq \sqrt{-1}$は虚数単位です.この2つの解は$u^3$と$v^3$に対応しますが,対称性から$+$と$-$は$u^3$と$v^3$のどちらに対応させてもよく,特に

$$\begin{aligned} u^3 &= - \frac{q}{2} + \mathrm{i} \sqrt{ \left| \frac{q^2}{4} + \frac{p^3}{27} \right|},\\ v^3 &= - \frac{q}{2} - \mathrm{i} \sqrt{ \left| \frac{q^2}{4} + \frac{p^3}{27} \right|} \end{aligned}$$

とすることができます.

さて,あとは3乗根を取れば$u$と$v$が求まる……と言いたいところですが,複素数の3乗根を考える必要がありますので,少し丁寧に取り扱いましょう.具体的には複素数$u^3$と$v^3$を極形式$r \mathrm{e}^{\mathrm{i} \theta} = r (\cos \theta + \mathrm{i} \sin \theta)$の形にしてから3乗根を計算します.

複素数$u^3$の大きさ$\lvert u^3 \rvert$と偏角の余弦$\cos \theta$はそれぞれ

$$\begin{aligned} &\lvert u^3 \rvert = \sqrt{-\frac{p^3}{27}}, \\ & \cos \theta = -\frac{q}{2} \cdot \sqrt{\frac{27}{-p^3}} \end{aligned}$$

を満たします.また偏角の正弦が$\sin \theta > 0$となることを踏まえると$0 < \theta< \pi$も満たします.これより$u$としては3つの数

$$u = \sqrt{-\frac{p}{3}} \mathrm{e}^{\mathrm{i} \phi},$$

ただし$\phi = \dfrac{\theta}{3}, \dfrac{\theta+2\pi}{3}, \dfrac{\theta + 4\pi}{3}$が解となります.$v$についても同様で

$$v = \sqrt{-\frac{p}{3}} \mathrm{e}^{-\mathrm{i} \psi},$$

ただし$\psi = \dfrac{\theta}{3}, \dfrac{\theta+2\pi}{3}, \dfrac{\theta + 4\pi}{3}$が解となります.

パッと見ると解$x = u+v$として6つの可能性があるように思えますが,$uv = - p/3$という関係式があったことを思い出すと,$u,v$の解を与える$\phi, \psi$の組は$\phi = \psi$となる3つのみだと分かります.すなわち,解$x = u + v$として

$$x = 2\sqrt{-\frac{p}{3}} \,\cos \frac{\theta+2k\pi}{3},$$

($k = 0,1,2$) を得ます.ここで$\mathrm{e}^{\mathrm{i} \theta} + \mathrm{e}^{-\mathrm{i} \theta} = 2 \cos \theta$を利用しました.

$\theta$は$\cos \theta = -\dfrac{q}{2} \cdot \sqrt{\dfrac{27}{-p^3}}$を満たす$0 < \theta < \pi$なる値として与えられていたので$p,q$から一意に定まります.よって上の$x$も$p,q$から定まり,解として異なる3つの実数が得られました.

命題 2.2

3次方程式$x^3 + px + q = 0$が$q^2/4 + p^3/27 < 0$を満たすとき,3つの解$x$は

$$x = 2\sqrt{-\frac{p}{3}} \,\cos \frac{\theta+2k\pi}{3}, \quad (k = 0,1,2).$$

ただし,$\theta$は$0 < \theta < \pi$を満たす実数で

$$\cos \theta = -\dfrac{q}{2} \cdot \sqrt{\dfrac{27}{-p^3}}$$

を満たすとする.

使用例

例題 2.3

実数係数の3次方程式$x^3 - 3x + 1 =0$を解け.

解法
上の議論で$p=-3$,$q = 1$とした場合に相当する.

まずこの方程式が異なる3つの実数解を持つかどうかを調べると,

$$\frac{q^2}{4} + \frac{p^3}{27} = -\frac{3}{4} < 0$$

であるから,確かにこの方程式は異なる3つの実数解を持つ.
そこで$\cos \theta = -\dfrac{q}{2} \cdot \sqrt{\dfrac{27}{-p^3}}$を満たす$0 < \theta < \pi$なる値を求めると,

$$\cos \theta = -\dfrac{q}{2} \cdot \sqrt{\dfrac{27}{-p^3}} = -\frac{1}{2}$$

となるので,$\theta = 2\pi/3$と分かる.したがって,解$x = 2\sqrt{-\dfrac{p}{3}} \,\cos \dfrac{\theta+2k\pi}{3}$ ($k = 0,1,2$) は

$$x = 2\cos \frac{2}{9}\pi,\, 2\cos \frac{8}{9} \pi,\, 2\cos \frac{14}{9} \pi$$

となる.□


おまけ (Vièteの方法)

3倍角の公式の利用

ここまでCardanoの公式を経由して異なる3つの実数解を持つような3次方程式の解き方を説明してきましたが,実は解がコサインで表せることを踏まえると以下のように3倍角の公式から解の公式を導くことができます.

コサインの3倍角の公式とは

$$\cos 3\alpha = 4 (\cos \alpha)^3 - 3 \cos \alpha$$

というものでした.適当な数$a \in \mathbb{R}_{>0}$を使った$2a^3$を両辺に掛けると

$$2a^3 \cos 3 \alpha = (2a\cos \alpha)^3 - 3a^2 (2a\cos\alpha)$$

と変形できます.$A = 2a\cos\alpha$とおくと

$$A^3 - 3a^2 A - 2a^3 \cos 3 \alpha = 0$$

となります.これはどこか$x^3 + px + q = 0$という3次方程式の標準形と似ています.すなわち,解きたい方程式$x^3 + px + q =0$に対して,もし

$$\left\{ \begin{array}{l} p = - 3a^2, \\ q = -2a^3 \cos 3\alpha \end{array} \right.$$

を満たすような$a$と$\alpha$がとれれば,解きたい方程式の解の一つに$A = 2a \cos \alpha$があるということができます.これがVièteの方法と呼ばれるものです.

解はすべて得られるか

前節で解が得られそうだと分かりました.細かいことが気にならない人は「得られたなぁ」で良いと思いますが,以下ではきちんと「適切な$a$と$\alpha$が取れるか」を見ていきます.この過程で実はVièteの方法で異なる3つの実数解のすべてを得られることも示します.

命題 3.1

3次方程式$x^3 + px + q = 0$が$q^2/4 + p^3/27 < 0$を満たすとき,

$$\left\{ \begin{array}{l} p = - 3a^2, \\ q = -2a^3 \cos 3\alpha \end{array} \right.$$

を満たすような$a>0$と$\alpha$を考える.このような$\alpha$は$0 < \alpha < 2\pi$の範囲に3つ存在する.したがって,$A = 2a \cos \alpha$としては3つの値をとりうる.

証明
$p$の式から直ちに$a = \sqrt{-p/3}$を得る.なお,$p < 0$に注意する.この$a$を考えると

$$\left \lvert -\frac{q}{2a^3} \right\rvert^2 = \frac{q^2}{4} \times \frac{27}{-p^3} < 1$$

となる.したがって$\cos 3\alpha = - q /(2a^3)$となるような$\alpha$は$0 < \alpha < 2\pi$の範囲に3つ存在する.■


系 3.2

3次方程式$x^3 + px + q = 0$が$q^2/4 + p^3/27 < 0$を満たすとき,3つの解$x$は

$$x = 2\sqrt{-\frac{p}{3}}\, \cos \alpha.$$

ただし,$a = \sqrt{-p/3}$とおいたとき,$\alpha$は$0<\alpha < 2\pi$および

$$\cos 3\alpha = - \frac{q}{2a^3}$$

を満たす3つの数を考えるとする.

なおここでは割愛しますが,このVièteの方法で得られた解がCardanoの方法で得られた解と全く同じ値を表していることも式変形によって示すことができます.しかし,これは読者の演習としておきましょう……

おわりに

本記事では特に異なる3つの実数解を持つ3次方程式の解法を扱いました.ちなみにこれ以外の条件のときは,Cardanoの方針において3乗根をとる操作が実数の3乗根を考える操作になるため,幾分簡単に計算を進められます.逆に言えばこの「異なる3つの実数解を持つ」という一見簡単そうに見える場合が一番厄介なことになっているのです.不思議です.なお,後半で紹介したVièteの方法がうまくいくのは$\cos 3\alpha$が取るべき値から分かるように実数解を持つときのみです.虚数解を持つときはこの方法は使えないので注意が必要です.