2020/11/12 22:45 更新
JJサクライ(1.4.49)の話
189 いいね ブックマーク
目次

前提知識

量子力学のブラケット記法・パウリ行列の基本性質

$$\gdef\ket#1{| #1 \rangle} \gdef\bra#1{\langle #1 |} \gdef\braket#1{\langle #1 \rangle}$$

本文の記述

JJサクライ『現代の量子力学』(J.J.Sakurai "Modern Quantum Mechanics")の1.4にて、選択測定についての話題がある。詳しくは触れない(各自教科書を入手されたい)が、そのうち、'Incompatible Observables'にて以下のような記述がある。

物理量$A$について、測定値$a$が得られた場合、状態は$A$の固有状態$\ket{a}$になる。$A$の特定の固有値$a'$に対して測定後状態$\ket{a'}$のみを残し、それ以外の測定後状態を残さないものとする。これをフィルターと呼ぶことにしよう。

image1

つまり、測定前の状態が$\ket{\psi}$にて記述されるときは、確率$|\braket{a'|\psi}|^2$にてこのフィルターを通過する。

さて、次に物理量$A,B,C$を考えて、以下のようなフィルターを考える。

状態$\ket{a'}$が$B$と$C$による以上のフィルターを通過する確率は

$$ |\braket{c'|b'}|^2|\braket{b'|a'}|^2$$

である。ここで、$b'$についての和をとってみる。すなわち、$B$によるフィルターを変えながら全て和をとることを考える。この場合、通過する確率は

$$P_1 = \sum_{b'}|\braket{c'|b'}|^2|\braket{b'|a'}|^2$$

となる。

この確率と、以下のフィルターを考える。

すなわち、$B$によるフィルターを取り除いたものである。この場合、通過する確率は

$$P_2 = |\braket{c'|a'}|^2$$

である。

ここで、以上の量が等しくなるには

$$ [A,B]=0 ~~または ~~[B,C] = 0$$

であれば十分である。

問題

本文の内容は特に問題はない。$[A,B]=0 ~~または ~~[B,C] = 0$の時は$\ket{b'}$が$A$または$C$の固有状態でもあるために$P_1=P_2$が導かれる。このことは本文でも演習問題とされており、検証は容易である。表記に気をつけよ。

さて、ここで必要条件と十分条件がどっちだっけーとなった人は、十分性ではなく必要性を導出しようとする。すなわち、以下の問題を考えてしまう。

問題

縮退のない物理量$A,B,C$について$P_1=P_2$のとき、すなわち、それぞれの固有状態を$\ket{a'},\ket{b'},\ket{c'}$と表して $$\sum_{b'}|\braket{c'|b'}|^2|\braket{b'|a'}|^2 = |\braket{c'|a'}|^2$$ が成立するとき、 $$[A,B]=0 ~~または ~~[B,C] = 0$$ となるか?

問題は適宜、都合の良いように解釈していただきたい。『任意の$\ket{a'},\ket{c'}$に対して〜』は入れておきたいだろう。

さあ、この問題を、解いてみよう。

答え

ならない

具体的に、2準位系にて以下の状況を考えれば良い。

$$A = \left(\begin{array}{cc}0 & e^{-i\pi/4} \\ e^{+i\pi/4} & 0\end{array}\right),B = \left(\begin{array}{cc}1 & 0 \\ 0 & -1\end{array}\right),C = \left(\begin{array}{cc}0 & e^{+i\pi/4} \\ e^{-i\pi/4} & 0\end{array}\right)$$

検証は読者への演習問題とする。

方針

もちろん問題は解いて終わりではない。考え方を知ることこそが、問題演習の肝である。……まあ、確かに考え方は十人十色。あくまでもこれは私の方針でしかない。

説明する。肯定的解決を求めようとしても厳密にはうまくいかないことがわかる。$A,B,C$のどの場合を対角化する表示をしても、「対角成分が等しい」くらいしか言えない。

そこで、具体的な反例を見つける。1準位系については自明に成立する。ここから2準位系での反例を見つける。

ここで重要になることは、$2\times 2$エルミート行列$X$は、$2\times 2$単位行列およびパウリ行列$\bm \sigma =(\sigma_x,\sigma_y,\sigma _z)$にて

$$X = c_0 I + \bm c\cdot \bm \sigma = \left(\begin{array}{cc}c_0 + c_z & c_x-ic_y \\ c_x+ic_y & c_0 - c_z\end{array}\right)$$

書ける性質だ。この性質を使うことで$P_1,P_2$および交換子を具体的な変数の関係式に帰着できる。

簡単のために、$B$を対角化し、$B = \sigma_z$とする。$A,C$については、$B$との交換関係を調べる上で、単位行列に比例する部分を考えても仕方がない。そして、固有値の大きさも今回は問題としていないために、ともに固有値$a',c' = \pm 1$を持つもの、すなわち、$|\bm n_A| = |\bm n_C| = 1$として

$$A = \bm n_A \cdot \bm \sigma , C = \bm n_C \cdot \bm \sigma $$

と書けるとする。あとは、固有値が$a',c' = \pm 1$であることからも射影演算子は、

$$P_A(a') = \ket{a'} \bra{a'} = \frac{1}{2} (I+a'A),\\ P_C(c') = \ket{c'} \bra{c'} = \frac{1}{2} (I+c'C)$$

であることがわかる。以上のことを$P_1,P_2$に代入することで、$P_1=P_2$から以下の等式を得る。

$$\mathrm{Tr}[AC] = \sum_{b'}\mathrm{Tr}[AP_B(b')CP_B(b')]$$

これを$\bm n_A,\bm n_C$にて書き直すと、

$$\bm n_A \cdot \bm n_C = n_{Az} n_{Cz}$$

である。

さて、以上の関係式を満たした上で$|\bm n_A| = |\bm n_C| = 1$となるベクトル$\bm n_A,\bm n_C$を見つければ、$A,C$を決定できる。さあ、ここで$[A,B]\neq 0\, ,\, [B,C]\neq 0$となる解を考えよう。

すると、

$$\bm n_A =\left(\frac{1}{\sqrt 2} , \frac{1}{\sqrt 2} , 0\right) ,~\bm n_C = \left(\frac{1}{\sqrt 2} , -\frac{1}{\sqrt 2} , 0\right)$$

が具体例として挙げられる。これにより$P_1=P_2$を満たした上で$[A,B]\neq 0~かつ [B,C]\neq 0$となる$A,B,C$を構成できる。先ほど答えで出した例がこの単位ベクトルをもつものである。

検証は読者への演習問題とする。

感想

このように、簡単であれば具体的に考えていくことが大事である。って話だね。この記事がこれからJJサクライを読む人の助けになれば幸いです。

参考文献:J.J.Sakurai "Modern Quantum Mechanics"