2. 級数
2.1.2. 項が $0$ に収束するが和は収束しない級数の例
$a_n\to 0$ であっても $\sum_{n=1}^{\infty}a_n$ が収束しない例として,比較的簡単なものを紹介する。
自然数 $m$ に対し,$m$ 以下の自然数の集合を $[1..m]$ もしくは $\mathbb{N}_{\le m}$ と記すことにする。
任意の $n\in [1..m]$ に対し,$1\le n\le m$ であるから,$1\le\sqrt{n}\le\sqrt{m}$ となり,したがって,逆数について $\frac{1}{\sqrt{m}}\le\frac{1}{\sqrt{n}}$ が成り立つ。ゆえに,
$$\sum_{n=1}^{m}\frac{1}{\sqrt{n}}\ge\sum_{n=1}^{m}\frac{1}{\sqrt{m}}=m\cdot\frac{1}{\sqrt{m}}=\sqrt{m}$$が成り立ち,$m\to\infty$ のとき $\sqrt{m}\to\infty$ であるから,級数 $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{\sqrt{n}}$ は正の無限大に発散する。$\blacksquare$
実数 $r$ が $0<r<1$ の範囲にあるとき,まず $r>0$ であることから $\frac{1}{n^r}$ は $n$ に関して単調減少で $n\to\infty$ のとき $\frac{1}{n^r}\to 0$ となるが,
$1-r>0$ であることにより $m\to\infty$ のとき $m^{1-r}\to\infty$ となる。
したがって,
となり,級数 $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^r}$ は発散することがわかる。
ところで,$r>1$ に対して $\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^r}$ が収束することをこれと同じくらい簡単な議論で示せるかというと,それは見込みがない。$0<r<1$ のときは,正の無限大に発散する数列 $(a_m)$ で,$\sum_{n=1}^{m}\frac{1}{n^r}\ge a_m$ となるものを見出せばよかったが,
それは $1/n^r$ の単調減少性をそのまま利用して,第 $m$ 項までの中で最小の $1/n^m$ を用いるだけで運よく構成できた。
しかし,$r>1$ の場合はむしろ $1/n^r$ の単調減少性があだとなり,初項から第 $m$ 項までの中の最大値 $1$ を用いて
としたところで,級数 $\sum \frac{1}{n^r}$ が収束することを示すのに全く役に立たない「評価」(estimate) が得られるだけである。そのため,もう少し技巧的な工夫を凝らす必要が生じる。
[更新履歴]
初稿:2021年4月14日
改稿:2021年4月22日,I 氏より指摘された typo の修正と,後半の文章の手直しおよび内容の追加。