はじめに
『コーシー・シュワルツの不等式』の等号成立条件について考えてみました。高校数学で不等式の証明で,不等式を証明した後に,等号成立条件を述べることがあります。多くの場合は,『証明のおまけ』みたいに載せておくことが多いのですが,等号成立条件を必要十分で簡潔に表すことが難しい場合もあります。私自身がコーシーシュワルツの不等式の等号成立条件をどのように考えていったのか,その経緯を紹介します。
コーシー・シュワルツの不等式
『コーシー・シュワルツの不等式』は次のようにな不等式で,常に成り立ちます。
(a12+a22+⋯+an2)(x12+x22+⋯+xn2)≧(a1x1+a2x2+⋯+anxn)2等号成立条件は
x1a1=x2a2=⋯=xnanと最初はなんとなく使っていました。でも,あるとき,もうちょっとちゃんと考えようと思ったのです。
例題
考えるきっかけとなったのは,次の不等式の等号成立条件です。
(x4+y4)(x2+y2)≧(x3+y3)2証明1
コーシーシュワルツの不等式を次のように適用すればOKである。
((x2)2+(y2)2)(x2+y2)≧(x2⋅x+y2⋅y)2等号は
xx2=yy2すなわち
x=yのときに限り成立する(???)
この等号成立条件は誤りです。普通に証明するとわかります。
証明2
(x4+y4)(x2+y2)−(x3+y3)2=x6+x4y2+y4x2+y6−x6−2x3y3−y6=x4y2+y4x2−2x3y3=x2y2(x2−2xy+y2)=x2y2(x−y)2≧0よって,
(x4+y4)(x2+y2)≧(x3+y3)2等号は
x=0またはy=0またはx=yのときに限り成り立つ。
となります。
等号成立条件の修正
そこで,等号成立条件を修正することにしました。最初に考えたのは比です。
a1:a2:⋯:an=x1:x2:⋯:xnこれは,0が部分的にあっても大丈夫です。一応,−2:3:1=2:−3:−1,5:0:0=1:0:0などを認める(ベクトルの実数倍のイメージ)形で考えましたが,それでも,0:0:0は定義できませんでした。そこで,ここを修正した形が,
a1=a2=⋯=an=0またはx1=x2=⋯=xn=0またはa1:a2:⋯:an=x1:x2:⋯:xnでした。結構長い間これを使っていたのですが,証明がいまひとつで,結果だけ使っていました。先程の例題もこれで一応大丈夫です。
x^2=x=0 または y^2=y=0 または x^2:x=y^2:y
現在使っている等号成立条件
コーシーシュワルツの不等式のn=3のときの証明で以下のようなものがあります。
(a2+b2+c2)(x2+y2+z2)≧(ax+by+cz)2証明
左辺−右辺=(a2+b2+c2)x2+(a2+b2+c2)y2+(a2+b2+c2)z2−a2x2−b2y2−c2z2−2abxy−2bcyz−2cazx=(b2x2−2abxy+a2y2)+(c2x2−2cazx+a2z2)+(c2y2−2bcyz+b2z2)=(bx−ay)2+(cx−az)2+(cy−bz)2≧0よって,不等式(a2+b2+c2)(x2+y2+z2)≧(ax+by+cz)2は成り立つ。
等号は
bx=ayかつcx=azかつcy=bzのときに限り成立する。
これをn個できちんとやってみようと思いました。いわゆるラグランジェの恒等式です。
(k=1∑nak2)(k=1∑nxk2)−(k=1∑nakxk)2=1≦i<j≦n∑(aixj−ajxi)2≧0
等号は1≦i<j≦n を満たす全ての自然数i,jで
aixj=ajxiを満たすときに限り成立する.
ということがわかりました。
以前,式を考えるときに,
『この式はnC2=2n(n−1)個の成立が必要だ。でも,x1a1=x2a2=⋯=xnan⋯★はn−1個の式だから,もっとまとめる必要があるのかな?』
と思っていたのが間違いでした。x1〜xnの途中に0があれば,式★は分断されるので,関係を維持するために多くの式が必要になるからです。
この考え方により,例題の等号成立条件も
x2y=xy2と考えるようになりました。