更新情報
2021.03.14: 一部に誤植を発見したため修正しました.内容に関わる部分としては$\left( \frac{5}{p} \right)$の計算の後ろから2つ目の式で「$\left( \frac{p}{5} \right)$」とすべきところを「$\left( \frac{5}{p} \right)$」としていたため修正しています.
最終回となる今回は2次体の整数環であって一意分解整域でない例を挙げます.
「あれっ? タイトルとちょっと違っていない? 単項イデアル整域でない例とか言ってたくせに」
と思われる方もいるかもしれません.
一般に「単項イデアル整域 (PID) ならば一意分解整域 (UFD)」です.
一方,$\mathbb{R}[x,y]$のようにUFDであるもののPIDではない例は存在するため,一般には「UFD$\Longrightarrow$PID」とはなりません.
しかし,代数体の整数環に話を限定すると「UFD$\Longrightarrow$PID」は成立します.
ですから別に「単項イデアル整域でない例」のことを「一意分解整域でない例」と称しても構わないわけです.
本記事ではまずこのことから示していきましょう.
以下,$K$を代数体,$\mathcal{O}_K$を$K$の整数環とします.
PIDとUFDの等価性
等価性を示す上で必要な代数体の整数環に関する性質をいくつか整理します.
有限な整域は体である.
証明は割愛しますが,「有限群の元の位数が有限である」ことの証明と同様です.
$I$を$\mathcal{O}_K$の非零なイデアルとすると,$\mathcal{O}_K/I$は有限集合.
証明
$n = [K:\mathbb{Q}]$とし,$\operatorname{Hom}_{\mathbb{Q}}^{\mathrm{al}}(K,\overline{\mathbb{Q}}) = \{ \sigma_1, \dots, \sigma_n\}$とする.ここで一般性を欠かずに$\sigma_1 = \operatorname{id}_{K}$とできる.
$x \in I \setminus \{0\}$をとると,命題 3.2.3から$\operatorname{N}_{K/\mathbb{Q}}(x) \in \mathbb{Z}$である.また,
$$\frac{\operatorname{N}_{K/\mathbb{Q}}(x)}{x} = \frac{1}{x} \prod_{i=1}^{n} \sigma_i (x) = \frac{x}{x} \prod_{i=2}^{n} \sigma_i (x) = \prod_{i=2}^{n} \sigma_i (x).$$この式の最左辺は分子が$\mathbb{Z}$の元,分母が$K$の元であるから$K$の元.
一方,最右辺は命題 3.2.2から$\mathbb{Z}$上整な元の積であり,これも$\mathbb{Z}$上整.
よって,$\operatorname{N}_{K/\mathbb{Q}}(x)/x \in \mathcal{O}_K$である.特に,$\operatorname{N}_{K/\mathbb{Q}}(x) \in x \mathcal{O}_K \subseteq I$である.
そこで,自然な写像
$$\phi \colon \begin{array}{ccc} \mathcal{O}_K / \operatorname{N}_{K/\mathbb{Q}}(x) \mathcal{O}_{K} & \longrightarrow & \mathcal{O}_K /I \\ \\ x+\operatorname{N}_{K/\mathbb{Q}}(x) \mathcal{O}_{K} & \longmapsto & x + I \end{array}$$を考えると$\phi$は全射になる.
また,ここでは証明を割愛しますが「代数体$K$の整数環は階数$[K:\mathbb{Q}]$の自由$\mathbb{Z}$加群になる」という事実が成り立つため
$$\mathcal{O}_{K} / \operatorname{N}_{K/ \mathbb{Q}} (x) \mathcal{O}_{K} \cong \mathbb{Z}^{n} / \operatorname{N}_{K/\mathbb{Q}}(x) \mathbb{Z}^{n} \cong \left(\mathbb{Z} / \operatorname{N}_{K / \mathbb{Q}}(x) \mathbb{Z}\right)^n$$が成り立つ.以上をまとめると,
$$\left\vert \mathcal{O}_K / I \right\vert \le \left\vert \mathcal{O}_K / \operatorname{N}_{K/ \mathbb{Q}} (x) \mathcal{O}_{K} \right\vert = \left\vert \mathbb{Z}/\operatorname{N}_{K/ \mathbb{Q}} (x) \mathbb{Z} \right\vert^n < \infty$$となり有限性が従う.
次の命題 6.1.3は代数体の整数環がDedekind環という環の分類になるということに関連する事実です.
$\mathcal{O}_K$の非零な素イデアルはすべて極大イデアルである.
証明
$\mathfrak{p}$を$\mathcal{O}_K$の非零な素イデアルとすると,$\mathcal{O}_K/\mathfrak{p}$は整域である.
命題 6.1.1と命題 6.1.2より$\mathcal{O}_K/\mathfrak{p}$は体である.
よって$\mathfrak{p}$は極大イデアルとなる.
次に示す定理は整数でいう「素因数分解」に相当するものが「素イデアルを使ってできるよ」ということを主張していますが,ここでは証明しません (文献[1]には証明が載っています).
$\mathcal{O}_K$の任意の非零なイデアルは,有限個の素イデアルの積の形に分解できる.
以上の事実を使って本丸であった次の定理 6.1.5を示します.
$\mathcal{O}_K$が UFD ならば PID でもある.
したがって,$\mathcal{O}_K$については PID であることと UFD であることが同値.
証明
定理 6.1.4よりUFDであるような$\mathcal{O}_K$の素イデアル$\mathfrak{p}$が単項イデアルであることを示せば十分.
$\mathfrak{p} = (0)$は単項イデアルである.以下,$\mathfrak{p} \neq (0)$とする.$x \in \mathfrak{p} \setminus \{0\}$をとる.
$\mathcal{O}_K$はUFDなので$x$を素元分解できる:
ただし,$u$は$\mathcal{O}_K$の単元,$p_1,\dots,p_n$は$\mathcal{O}_K$の素元とする.
いま,$\mathfrak{p}$は素イデアルなので,ある$i \in [n]$が存在して$p_i \in \mathfrak{p}$である.
$p_i$は素元であるから$(p_i) = p_i \mathcal{O}_K$は素イデアル.
命題 6.1.3よりこれは極大イデアルになるが,$(p_i) \subseteq \mathfrak{p} \subsetneq \mathcal{O}_K$であるから,$\mathfrak{p} = (p_i)$を得る.
よって,素イデアル$\mathfrak{p}$は単項イデアル.
UFDでない2次体の整数環の例
前章でPIDでない$\mathcal{O}_K$の例はUFDでない$\mathcal{O}_K$の例と等価であることを主張しました.そこで,本章ではそのような2次体の整数環の例について一つ考えてみます.UFDでないことの証明には提示する分解が素元分解になっていることを示す必要がありますが,この部分の証明については今までで何度か説明しているので割愛します.
$K = \mathbb{Q}(\sqrt{-5})$の整数環である$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$はUFDでない.
証明
$6 = 2 \times 3 = (1+\sqrt{-5})(1-\sqrt{-5})$は$2$,$3$,$1 \pm \sqrt{-5}$が互いに同伴でない既約元である.
いま,$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$がUFDと仮定するとこれらは素元となり,$6$の二通りの素元分解が得られて矛盾する.よって$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$はUFDでない.
例 6.2.2
$p$を素数としたとき,$p$が$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$で素元になるのはいつかを調べます.方法はGauss整数環やEisenstein整数環のときと同様なので省略多めで進めます.
$$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}] / (p) \cong \mathbb{Z}[x] / (x^{2}+5, p) \cong \mathbb{F}_{p}[x] / (x^{2}+5)$$より,$\mathbb{F}_p[x]$がEuclid整域であることから,
さらにこのことは任意の$a \in \mathbb{F}_p$に対して$a^2 \neq -5$となることと同値です.
いま,$p = 5$なら$\mathbb{F}_5$で$a^2 + 5 = a^2$なので$a = 0$が原因で上の条件を満たしません.そこで以下では$p \neq 5$とします.
今回は平方剰余の記号 (Legendre記号) 参考: ルジャンドル記号とオイラーの規準 | 高校数学の美しい物語を用いてこの条件を精査していきます.
満たすべき条件は
ここで,
$$\left( \frac{5}{p} \right) = (-1)^{\frac{5-1}{2} \frac{p-1}{2}} \left( \frac{p}{5} \right) = \left( \frac{p}{5} \right) = \begin{cases} 1, & \text{if $p \equiv 1,4 \pmod{5}$}\\ -1, & \text{if $p \equiv 2,3 \pmod{5}$} \end{cases}.$$よって,$p$が$\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$の素元である必要十分条件は
i) $p \equiv 1,4 \pmod{5}$のとき,$(p-1)/2$は奇数つまり$p \equiv 3 \pmod{4}$.整理すると,
$$\begin{aligned} \begin{cases} p \equiv 1 \pmod{5},\\ p \equiv 3 \pmod{4}\\ \end{cases} \iff p \equiv 11 \pmod{20},\\ \begin{cases} p \equiv 4 \pmod{5},\\ p \equiv 3 \pmod{4}\\ \end{cases} \iff p \equiv 19 \pmod{20}. \end{aligned}$$ii) $p \equiv 2,3 \pmod{5}$のとき,$(p-1)/2$は偶数つまり$p \equiv 1 \pmod{4}$.先ほどと同様の計算をすることでこのとき
$$p \equiv 13, 17 \pmod{20}$$と分かる.
以上より,
となる.
まとめ
以上で6回に亘った私なりの「2次体の整数環」に関するまとめを終わります.
本シリーズで伝えたかったことの一つは「2次体の整数環は$\sqrt{d}$または$(1+\sqrt{d})/2$のどちらかによって$\mathbb{Z}$上で生成される加群になること」でした.これは第3回で証明を行いました.$d$を$4$で割ったときの余りによって整数環の構造が違うところが興味深いと思っています.
もう一つ本シリーズを通して伝えたかったことは「整数環の構造が同じように書けたとしても,その環の構造は様々」ということです.本記事で述べたことから一般の代数体の整数環は① Euclid整域である,② Euclid整域ではないがPIDではある,③PIDではない の三つに分けられることが分かり,必ずしも同じような構造をもつとはいえないことが分かります.
2次体の整数論は面白い分野だと思ったのでこれからももう少し詳しく学んでいこうと思います.
参考文献
1: 整数論1 初等整数論から$p$進数へ.雪江明彦 著.
2: ルジャンドル記号とオイラーの規準 | 高校数学の美しい物語.