2020/12/13 12:25 更新
2次体の整数環 (3) —2次体の整数環の構造
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目次

第2回で述べたように,整数環とは代数体の元であって整数係数のモニック多項式の根となるもの全体の集合のことでした.そして最も簡単な整数環の例は1次体$\mathbb{Q}$の整数環である$\mathbb{Z}$でした.第3回となる今回は次に簡単な整数環の例と言える2次体の整数環について考えます.

2次体の決定

そもそも2次体 ($\mathbb{Q}$の2次拡大) はどのような形をしているのでしょうか.

例 3.1.1

(1) $\mathbb{Q}$に$\sqrt{2}$を添加した体$\mathbb{Q}(\sqrt{2}) = \{ x + y \sqrt{2} \mid x, y \in \mathbb{Q} \}$は$\mathbb{Q}$上の2次のベクトル空間となります.これが2次拡大の定義でしたから,$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$は2次体です.

(2) より一般に$\sqrt{d}$が有理数とならないような$d \in \mathbb{Z}$を考えると,$\mathbb{Q}(\sqrt{d}) = \{ x + y\sqrt{d} \mid x,y \in \mathbb{Q} \}$は$\mathbb{Q}$上の2次のベクトル空間です.したがって,$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$は2次体です.

(3) $\mathbb{Q}$に$\sqrt[3]{2}$を添加した体$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2}) = \{ x + y \sqrt[3]{2} + z \sqrt[3]{2}^2 \mid x,y,z \in \mathbb{Q} \}$は$\mathbb{Q}$上の3次のベクトル空間です.したがって,$\mathbb{Q}(\sqrt[3]{2})$は3次体です.


例 3.1.1から2次体は$\mathbb{Q}(\sqrt{d})$の形で書き表されそうに見えます.この予想が正しいと主張するのが次の命題 3.1.2です.

命題 3.1.2

2次体$K$に対して,ある$d \in \mathbb{Z}$が存在して$K=\mathbb{Q}(\sqrt{d})$である.

証明.
$K$は$\mathbb{Q}$の2次のベクトル空間なので,$K$の$\mathbb{Q}$基底$\{1, t\} \subseteq K$をとることができる.
このとき,$t^2 \in K$であるからある$a_1, a_2 \in \mathbb{Q}$が存在して$t^2 = a_1 + a_2 t$となる.これを$t$に関する2次方程式だと思えば

$$t = \frac{a_2}{2} \pm \sqrt{a_1 + \frac{a_2^2}{4}}$$

を得る.なお,根号の中身は負の値も許し,その場合は虚数であるとみなす.よって,

$$K = \begin{cases} \mathbb{Q} + \left( \dfrac{a_2}{2} + \sqrt{a_1 + \dfrac{a_2^2}{4}} \right) \mathbb{Q} = \left\{ x + y \left( \dfrac{a_2}{2} + \sqrt{a_1 + \dfrac{a_2^2}{4}} \right) \mathrel{}\middle|\mathrel{} x,y \in \mathbb{Q} \right\}, \\ \\ \mathbb{Q} + \left( \dfrac{a_2}{2} - \sqrt{a_1 + \dfrac{a_2^2}{4}} \right) \mathbb{Q} = \left\{ x + y \left( \dfrac{a_2}{2} - \sqrt{a_1 + \dfrac{a_2^2}{4}} \right) \mathrel{}\middle|\mathrel{} x,y \in \mathbb{Q} \right\} \end{cases}$$

のどちらかになるが,どちらの集合も

$$\begin{aligned} \tilde{x} := x + y\frac{a_2}{2} \in \mathbb{Q},&&\tilde{y} := \pm \frac{y}{2} \in \mathbb{Q} \end{aligned}$$

の書き換えで

$$K = \left\{ \tilde{x} + \tilde{y} \sqrt{4a_1 + a_2^2} \mathrel{}\middle|\mathrel{} \tilde{x}, \tilde{y} \in \mathbb{Q} \right\} = \mathbb{Q}\left(\sqrt{4a_1 + a_2^2}\right)$$

と書ける.

いま,有理数$4a_1 + a_2^2$を$A/B$ ($A \in \mathbb{Z}$,$B \in \mathbb{N}_{>0}$) と書けば

$$K = \mathbb{Q}\left(\sqrt{4a_1 + a_2^2}\right) = \mathbb{Q} \left( \sqrt{\frac{A}{B}} \right) = \mathbb{Q}(\sqrt{AB})$$

である.$AB \in \mathbb{Z}$であるから主張が従う.

証明終.

なお,$d \in \mathbb{Z}$が$\sqrt{d} \notin \mathbb{Q}$を満たすという条件は「$d$が1でなく,平方因子を持たない整数である」という条件に置き換えることが可能です.

トレースとノルム

2次体の整数環の決定に登場するトレースとノルムについて説明します.体論は前提知識として仮定してはいますが,復習の意味も込めて説明します.

定義 3.2.1

$L/K$: 体の有限次拡大とする.$a \in L$に対して写像$m_{a} \colon L \longrightarrow L$を,$L$の元に$a$を掛ける写像$x \longmapsto ax$として定める.このとき,$L$を$K$上のベクトル空間とみなすと$m_a$は$K$線形写像になる.行列$A$を$L$のある基底に関する$m_a$の表現行列とする.このとき,$a \in L$の トレース (trace) $\operatorname{Tr}_{L/K}(a)$と ノルム (norm) $\operatorname{N}_{L/K}(a)$を

$$\begin{aligned} \operatorname{Tr}_{L/K}(a) := \operatorname{Tr}(m_a) = \operatorname{tr} A, && \operatorname{N}_{L/K}(a) := \operatorname{N}(m_a) = \det A \end{aligned}$$

で定める.なお,この値は$L$の基底の取り方によらない.

ここでは証明を省きますが,$L/K$が分離拡大であって$L$から$\overline{K}$への$K$準同型全体の集合を$\operatorname{Hom}_K^{\mathrm{al}} (L, \overline{K}) = \{\sigma_1,\dots,\sigma_n\}$と定めるときには,トレースとノルムはそれぞれ

$$\begin{aligned} \operatorname{Tr}_{L/K}(a) = \sum_{i=1}^{n} σ_i (a), && \operatorname{N}_{L/K}(a) = \prod_{i=1}^{n} σ_i (a) \end{aligned}$$

で表されます.

命題 3.2.2

$A$を整域,$B$を$A$を含む整域,$K$を$A$の分数体,$\sigma$を$B$を含む体からの$K$準同型とする.
$x \in B$が$A$上整ならば$\sigma(x)$も$A$上整である.

証明.
$x$が$A$上整であるから,あるモニック多項式$f(t) = t^n + a_1t^{n-1} + \cdots + a_n \in A[t]$が存在して$f(x) = 0$が成り立つ.便宜的に$a_0 = 1$と定めれば

$$f(σ(x)) = \sum_{i=0}^{n} a_i (σ(x))^{n-i} = σ \left( \sum_{i=0}^{n} a_i x^{n-i} \right) = σ(f(x)) = 0.$$

よって,$\sigma(x)$も$A$上整である.

証明終.
命題 3.2.3

$A$を整域,$K$を$A$の分数体,$L$を$K$の$n$次分離拡大,$B$を$L$における$A$の整閉包とする.
(1) $x \in L$に対して$\operatorname{Tr}_{L/K}(x) \in K$,$\operatorname{N}_{L/K}(x) \in K$.
(2) $A$が整閉整域ならば,$x \in B$に対して$\operatorname{Tr}_{L/K}(x) \in A$,$\operatorname{N}_{L/K}(x) \in A$.

この命題の(1)の証明は読み飛ばしても構いません.

証明.
(1) 証明は同様のため,トレースが$K$の元になることだけを明示的に示す.$\operatorname{Hom}_{K}^{\mathrm{al}}(L, \overline{K}) = \{\sigma_1, \dots, \sigma_n \}$とおく.このとき,$K$の元は$\sigma_i$たちにより共役な元に写るため,特に$\sigma_i$を$L$のGalois閉包$\tilde{L}$への写像$\sigma_i \colon L \longrightarrow \tilde{L}$とみなすことができる.このとき,$\operatorname{Hom}_{K}^{\mathrm{al}}(\tilde{L}, \overline{K}) = \operatorname{Gal}(\tilde{L}/K)$の任意の元$\tau$によってトレースが不変であればGalois理論からトレースが$K$の元になることが従う.

$\tau \in \operatorname{Gal}(\tilde{L}/K)$を任意にとる.$\tau$は写像

$$\tau \circ \colon \begin{array}{ccc} \operatorname{Hom}_{K}^{\mathrm{al}}(L, \tilde{L}) & \longrightarrow & \operatorname{Hom}_{K}^{\mathrm{al}}(L, \tilde{L})\\ \\ \sigma & \longmapsto & \tau \circ \sigma \end{array}$$

を引き起こすが,この写像は$\tau$が逆写像をもつことから全単射になる.すると,

$$\tau \left(\operatorname{Tr}_{L/K}(x)\right) = \sum_{i=1}^{n} \tau \left( \sigma_i(x)\right) = \sum_{i=1}^{n} \sigma_i(x) = \operatorname{Tr}_{L/K}(x)$$

となる.これより$\operatorname{Tr}_{L/K}(x) \in K$である.

(2) $x \in B$であるため,命題 3.2.2から$\operatorname{Tr}_{L/K}(x) = \sum_{i=1}^{n} \sigma_i (x)$,$\operatorname{N}_{L/K}(x) = \prod_{i=1}^{n} \sigma_i (x)$は$B$の元である.
(1)から$\operatorname{Tr}_{L/K}(x), \operatorname{N}_{L/K}(x) \in K$である.
以上より,$\operatorname{Tr}_{L/K}(x), \operatorname{N}_{L/K}(x) \in B \cap K = A$である.ここで$A$が整閉整域なので,$B \cap K$,すなわち,$K$の元であって$A$上整な元全体の集合は$A$に一致することに注意.

証明終.

2次体の整数環の決定

前章で述べたトレースとノルムに関する性質を利用して2次体の整数環の構造を調べます.

定理 3.3.1

$d$を平方因子を持たない1でない整数とする.2次体$K = \mathbb{Q}(\sqrt{d})$の整数環$\mathcal{O}_K$を考える.

$$\mathcal{O}_K = \begin{cases} \mathbb{Z} \left[ \dfrac{1+\sqrt{d}}{2} \right], & \text{if $d \equiv 1 \pmod{4}$},\\ \mathbb{Z} [ \sqrt{d}], & \text{if $d \equiv 2,3 \pmod{4}$}. \end{cases}$$

注意.
$d$は平方因子を持たないとしたので,$d \equiv 0 \pmod{4}$となることはありません.そのため,上の場合分けは全ての場合を尽くしています.

証明.
$x = a + b \sqrt{d} \in \mathcal{O}_K$とする.ここで$a,b \in \mathbb{Q}$とする.命題 3.2.3 (2)より

$$\begin{aligned} T &= \operatorname{Tr}_{L/K}(x) = (a + b \sqrt{d}) + (a - b \sqrt{d}) = 2a \in \mathbb{Z},\\ N &= \operatorname{N}_{L/K}(x) = (a + b \sqrt{d})(a - b \sqrt{d}) = a^2 - b^2 d \in \mathbb{Z} \end{aligned}$$

である.よって,$4N = (2a)^2 - 4b^2d = T^2 - 4b^2d$となる.そのため,$4b^2d = T^2 - 4N \in \mathbb{Z}$である.

ここで,$b$の分母に2以外の素因数$p$があるとき,$b$の分子を$k$とおけば$4k^2d/p^2 \in \mathbb{Z}$となることはない.また,$b$の分母が$2^2$以上の2冪であるとき,$4k^2d/2^{2+2\alpha} = k^2d/2^{2\alpha} \in \mathbb{Z}$となることはない.以上より$b =b_1/2$ ($b_1 \in \mathbb{Z}$) とおける.

まとめると$a = T/2$,$b = b_1/2$となる.このとき,

$$N = a^2 -b^2 d = \dfrac{T^2 - b_1^2d}{4} \in \mathbb{Z}$$

であったから,$T^2 - b_1^2d \equiv 0 \pmod{4}$である.

i) $T$が偶数のとき,
$T^2 \equiv 0 \pmod{4}$なので特に$b_1^2d \equiv 0 \pmod{4}$.いま,$b_1^2 \equiv 0,1 \pmod{4}$のいずれかであって,$d \equiv 1,2,3 \pmod{4}$であるため,$b_1^2 \equiv 0 \pmod{4}$となる.つまり$b_1 \equiv 0 \pmod{2}$である.
つまり,$T$も$b_1$も偶数なので,

$$a + b \sqrt{d} = \dfrac{T}{2} + \dfrac{b_1}{2} \sqrt{d} \in \mathbb{Z} + \mathbb{Z}[\sqrt{d}]$$

である.

ii) $T$が奇数のとき,
$T^2 \equiv 1 \pmod{4}$なので特に$b_1^2d \equiv 1 \pmod{4}$.いま,$b_1^2 \equiv 0 \pmod{4}$ならこの式は成り立たないので,$b_1 \equiv 1 \pmod{2}$である.このとき$d \equiv 1 \pmod{4}$に限られる.また,

$$a + b \sqrt{d} = \dfrac{T}{2} + \dfrac{b_1}{2} \sqrt{d} = \dfrac{T-b_1}{2} + \dfrac{b_1}{2} (1 + \sqrt{d}) \in \mathbb{Z} + \mathbb{Z}\left[ \dfrac{1+\sqrt{d}}{2}\right]$$

である.

以上のことと$\mathbb{Z} + \mathbb{Z}[\sqrt{d}] \subseteq \mathbb{Z} + \mathbb{Z}\left[ \dfrac{1+\sqrt{d}}{2}\right]$であることに注意すると

  • $d \equiv 1$のとき,$\mathcal{O}_K \subseteq \mathbb{Z} + \mathbb{Z}\left[ \dfrac{1+\sqrt{d}}{2}\right]$
  • $d \equiv 2,3$のとき,$\mathcal{O}_K \subseteq \mathbb{Z} + \mathbb{Z}[\sqrt{d}]$

としかならないと分かる.

以上の包含関係の逆向きが成り立つかどうかを調べる

$d \equiv 2,3$のとき,$\sqrt{d}$は$t^2 - d \in \mathbb{Z}[t]$の根である.よって$\sqrt{d} \in \mathcal{O}_K$である.$\mathcal{O}_K$は環なので$\mathcal{O}_K \supseteq \mathbb{Z} + \mathbb{Z}[\sqrt{d}]$である.

$d \equiv 1$のとき,$(1+\sqrt{d})/2$は$t^2 - t + (1-d)/4$の根である.いまは$d-1$が4の倍数になるためこの多項式は整数係数の多項式である.したがって,$(1+\sqrt{d})/2 \in \mathcal{O}_K$である.$\mathcal{O}_K$は環なので$\mathcal{O}_K \supseteq \mathbb{Z} + \mathbb{Z}[(1+\sqrt{d})/2]$である.

以上から,主張が従う.

証明終.

まとめ

本シリーズで重要な帰結が得られました.すなわち,2次体$K = \mathbb{Q}(\sqrt{d})$の整数環$\mathcal{O}_K$は

$$\mathcal{O}_K = \begin{cases} \mathbb{Z} \left[ \dfrac{1+\sqrt{d}}{2} \right], & \text{if $d \equiv 1 \pmod{4}$},\\ \mathbb{Z} [ \sqrt{d}], & \text{if $d \equiv 2,3 \pmod{4}$}. \end{cases}$$

です.次回以降は具体的に2次体の整数環にどのようなものがあるのかを見ていきます.

参考文献

1: 整数論1 初等整数論から$p$進数へ.雪江明彦 著.