2020/06/02 20:42 更新
Harsanyiの集計定理と功利主義
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目次

前提知識

線形代数

前書き

こんにちは。突然ですが、功利主義ってすごいですよね。いや、思想家のようなことを言いたいのではありません。現在、それは物事を測る道具として、すごく色々なところで登場しています。時には、世の中のためになるような政策を正当化したり、時には、不平等な結果を導いたり。
ともあれ、この功利主義に関連したもので、Harsanyiの集計定理というものがあります。今回はその定理を証明し、それがどういう風に捕らえられているかを述べてみたいと思います。
多分、多くの人は聞いたことすらないと思うのですが、数学的主張が直感とどう関わるか分かるような例として面白いと感じました。

功利主義

そもそも功利主義ってなんでしたっけ。功利主義は、ここでは、全体の効用が個人の効用の平均で表されているものとします。 (総和を考えるケースも当然あります。)
つまり、全体の効用 (社会厚生関数)$W(u)$が

$$W(\bm{u})=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^nu_i$$

とかける場合を言っていることにします。$\bm{u}=(u_1,...,u_n)$で、$n \in \mathbb{N}$は構成員の人数で、有限の数とします。
つまり、社会状態が良くなるのは、全員の効用の平均が良くなる場合に限ることを言っています。あなたが何か意味のあることをしようとしても、全体の平均が減少するようでは、それはこの理論の下では、正当化されません。

期待効用

また、期待効用を考えます。つまり、効用の値が個人で決定論的に決まるわけではなく、確率的に決まるという枠組みを考えることにします。von Neumann-Morgenstern効用関数と言われているもので、少し複雑です。取りうる社会状態全体の集合を$X$とします。$X$上の確率分布を考えます。あとで、定理の証明を行いますが、その時は、この$X$は有限のものとします。無限集合の場合でも、同じ議論ができます。$X$上の確率分布の集合を$\Delta(X)$で書きます。つまり、

$$\Delta(X)=\{ \bm{p}:X \rightarrow [0,1] \mid \sum_{x \in X}p(x) =1 \}$$

です。また、$\Delta(X)$上の二項関係$\succeq$が存在しているとします。さらに、この順序に対して、次のような条件を満たす、ある関数$u$が正のアフィン変換を除いて、一意に決まります。条件とは、任意の$p,q \in \Delta(X)$について、

$$p \succeq q \Leftrightarrow \sum_{x \in X}p(x) u(x) \geq \sum_{x \in X}q(x) u(x)$$

が成り立っているというものです。右辺を書き換えると、$\mathrm{E}_p[u(x)] \geq \mathrm{E}_q[ u(x)]$のことです。
この一意に決まる関数をvon Neumann-Morgenstern効用関数といいます。存在性の証明や、一意性の証明は今回は省略します。
個人個人で、社会状態に対して選好を持っているという仮定は、ある程度正しいように思えます。社会状態とは、資源が自分にどれくらい分配されるとか、誰の権力がどれくらいとか、そういうのも含むとします。ひとまず、全ての個人は、この二項関係を持っているとします。つまり、個人はそれぞれ効用関数をもつことにします。

また、功利主義では、全体の期待効用は

$$W(u)=\frac{1}{n}\sum_{i=1}^n\mathrm{E}[u_i(x)]$$

となります。

Harsanyiの集計定理

まずは、言葉で説明します。簡単に言ってしまうと、ある条件下では、社会の効用関数が、社会の中にいる個人の持つ効用関数のアフィン変換で表現されるというものです。ここで、ある条件とは、パレート無差別 (Pareto indifference)というものです。

パレート無差別

(定義) パレート無差別 (Pareto indifference)
各個人$i \in [n]=\{1,2,...,n\}$の効用関数を$u_i:X \rightarrow \mathbb{R}$とします。また、社会厚生関数を$W(u)$と書きます。$W$は$u=(u_1,...,u_n)$の関数です。このとき、任意の$\bm{p},\bm{q} \in \Delta(X)$について、

$$\forall i \in [n] , \ \mathrm{E}_p[u_i(x)] = \mathrm{E}_q[ u_i(x)] \Rightarrow \mathrm{E}_p[W(u)] = \mathrm{E}_q[W(u)] $$

が成り立っているとき、パレート無差別が成立しているといいます。
つまり、構成員が全員一致で、期待値の意味で同じ効用である判断するならば、全体の効用も期待値の意味で同じになるという定義です。

Theorem (Harsanyiの集計定理)

$n$人の個人がいるとします。($n +1< |X|=m$とします。$m$は社会状態の総数です。)個人$i$は効用関数$u_i$をもっているとします。今、パレート無差別が成立していると仮定します。
このとき、ある実数$w_1,w_2,...,w_n,\alpha$が存在して、社会厚生関数は、

$$W(u)=\sum_{i=1}^nw_iu_i(x)+\alpha$$

とかけます。

つまり、社会厚生関数が、個人の効用関数のアフィン変換でかけるということです。実は、証明はすごく簡単です。
まず、全ての$i \in [n]$に対して、

$$\sum_{x \in X}b(x)=0\ かつ\ \sum_{x \in X}u_i(x)b(x)=0$$

を満たすベクトル$\bm{b}$をとってきます。これは、一意に定まるわけではありませんが、一つとってくることができます。なぜなら、$\mathbb{R}^m$の空間の中で、$(u_1,u_2,...,u_n,\bm{1})$の貼る空間を$V$として、その直交補空間から、なんでもいいベクトルを一つとってこれば良いからです。(今、$n +1< m$が成立しています。) ここで、$\bm{1}$は要素が全て$1$の$m$次元ベクトルです。
次に、新しい2つのベクトル$\bm{p}$、$\bm{q}$を

$$\bm{p}=\frac{1}{m}\bm{1}+\lambda \bm{b} , \ \ \bm{q}=\frac{1}{m}\bm{1}-\lambda \bm{b}$$

と定めます。ここで、$\lambda$はある実数で、$\lambda>0$かつ、任意の$x \in X$で、$p(x)>0$かつ$q(x)>0$を満たしているものとする。こういう$\lambda$がちゃんと存在するか疑問であるが、$\lambda$を

$$\min_x\frac{1}{m |b(x)|} > \lambda >0$$

を満たすようにとってこれば良いです。
このとき、$\bm{p},\bm{q} \in \Delta(X)$です。なぜなら、要素は全て正で、要素の総和は定義から、$1$になっているからです。今、

$$\bm{p}-\bm{q}=2\lambda \bm{b}$$

なので、この$\bm{p},\bm{q} \in \Delta(X)$について期待値を考えると、任意の$i$について、

$$\begin{aligned} \mathrm{E}_p[u_i(x)]-\mathrm{E}_q[u_i(x)]&=\sum_{x \in X}(p(x)- q(x))u_i(x) \\ &=\sum_{x \in X}2\lambda b(x) u_i(x)\\ &=0 \end{aligned}$$

となります。故に、パレート無差別の条件から、

$$\mathrm{E}_p[W(u(x))]-\mathrm{E}_q[W(u(x))]=0$$

が成立しているべきです。これより、$W(u(x))=w(x)$とかくと、

$$0=\sum_{x \in X}(p(x)-q(x))w(x)=2\lambda \sum_{x \in X}b(x)w(x)$$

となります。$\lambda$は$0$ではないので、$\sum_{x \in X}b(x)w(x)=0$を得ます。
これより、ベクトル$\bm{w}$は$\bm{b}$と直交していることがわかります。よって、空間$V$に含まれることがわかります。それゆえに、$\bm{w}$は$(u_1,u_2,...,u_n,\bm{1})$の線形結合で書くことができることがわかり、それらの係数を$(w_1,w_2,...,w_n,\alpha)$とすると、

$$w(x)=\sum_{i=1}^nw_i u_i(x)+\alpha$$

と書けることがわかりました。

補足

さて、定理を証明したことで、社会厚生関数が、個人の効用関数の線形結合プラス定数で書くことができることがわかりました。パレート無差別の仮定が強いと言えば強いのですが、直感的に考えるとあまり違和感を感じる仮定とは思えないところが不思議なものです。
さらに、このとき、個人個人で、重み$w_i$が異なっていました。つまり、$w_i$が大きい人ほど、全体に与える影響が大きい人であると捉えることができます。さらに、仮定で匿名性(Anonymous)を追加すると、つまり、個人個人で社会全体では差異がない場合を考えると、それは、最初に紹介した功利主義になります。功利主義の一つの解釈として、こういうものがあります。だからどうというのは、詳しくは様々な文献を当たると色々な言明に出会えると思います。

コメント

数学的には難しくありませんが、トピックは面白いようなものを紹介しました。とは言っても、ざっくりとした説明しかしてないですが...
間違いや、うっかり変なことを言ってるかもしれません。ご指摘あれば、よろしくお願いします。

参考文献

Hammond, P. J. "Harsanyi’s utilitarian theorem: A simpler proof and some ethical connotations." Rational Interaction. Springer, Berlin, Heidelberg, 1992. 305-319.