ヒルベルトの不等式
(ℓ2の元の)数列{an},{bn} に対して
n=1∑∞m=1∑∞n+manbm≤πn=1∑∞an2m=1∑∞bm2.
おそらく元々のモチベーションは(離散)ヒルベルト変換がℓ2の中で有界作用素か、有界作用素ならばそのノルムはいくらかということにあったっぽい. たしかにn+mとかn−mみたいなものが分母にあるとヒルベルト変換感ある。上の式は一番シンプルな形だけどヒルベルト型の不等式の亜種は色々研究されている.
ちなみにヒルベルトは右辺の定数が2πの場合を示したらしい。ヒルベルトでも得られなかったタイトな評価を今の自分が理解できるという事実にビビりますね. いかに人類知が積み重ねられ共有されているか.
証明
∫02π(π−t)eintdt=[inπeint−in1teint−n21eint]02π=−in2πより
n1=2πi1∫02π(π−t)eintdt.ゆえに
n=1∑Nm=1∑Mn+manbm=2πi1n=1∑Nm=1∑M∫02πanbm(π−t)ei(n+m)tdt=2πi1∫02π(π−t)n=1∑Naneintn=1∑Mnmeimtdt.積分版シュワルツの不等式などから
∣∣∣∣∣∣n=1∑Nm=1∑Mn+manbm∣∣∣∣∣∣=2π1∣∣∣∣∣∣∫02π(π−t)n=1∑Naneintm=1∑Mbmeimtdt∣∣∣∣∣∣≤2π1∫02π∣∣∣∣∣∣(π−t)n=1∑Naneintn=1∑Mbmeimt∣∣∣∣∣∣dt≤2π1⋅π⋅∫02π∣∣∣∣∣∣n=1∑Naneintm=1∑Mbmeimt∣∣∣∣∣∣dt≤2π1⋅π⋅∫02π∣∣∣∣∣∣n=1∑Naneint∣∣∣∣∣∣2dt⋅∫02π∣∣∣∣∣∣m=1∑Mbme−imt∣∣∣∣∣∣2dt=2π1⋅π⋅2πn=1∑Nan2⋅2πm=1∑Mbm2=πn=1∑Nan2m=1∑Mbm2.となる. とくに{an},{bm}がl2の元ならばN,M→∞として目的の不等式が得られる.
補足
上の証明では1/nをフーリエ係数として表すのが肝であった. 同様に1/n2をフーリエ係数で表せば
n=1∑∞m=1∑∞(n+m)2anbmも評価できる.
他のやり方としては1/p+1/q=1なる正数p,qを用いて次のように式変形して,
n=1∑Nm=1∑Mn+manbm=n=1∑Nm=1∑M(n+m)p1(nm)pq1an(n+m)q1(mn)pq1bm右辺にヘルダーを使えば
n=1∑∞m=1∑∞n+manbm≤Cp,q∥a∥p∥b∥qの形の評価を作れる. 今回はp=q=1/2の場合でC1/2,1/2=πだったということ.
ちなみに今回示した不等式のπという係数はこれ以上改善できない. この事実は
an=bn=n21+ε1の場合を考えるとわかる. (そんなに自明ではなくちょっと計算する必要がある...) こういう例は空から降ってきたかのように見えるけど{an},{bn}がギリギリℓ2から外れるか外れないところを考えてると言われたらなるほどなーって感じ.