2022/03/21 02:48 更新
ヒルベルトの不等式
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目次

ヒルベルトの不等式

定理

($\ell^2$の元の)数列$\{a_n\}, \{b_n\}$ に対して

$$\sum_{n=1}^\infty \sum_{m=1}^\infty \frac{a_nb_m}{n+m} \le \pi \sqrt{\sum_{n=1}^\infty a_n^2}\sqrt{\sum_{m=1}^\infty b_m^2}.$$

 おそらく元々のモチベーションは(離散)ヒルベルト変換が$\ell^2$の中で有界作用素か、有界作用素ならばそのノルムはいくらかということにあったっぽい. たしかに$n+m$とか$n-m$みたいなものが分母にあるとヒルベルト変換感ある。上の式は一番シンプルな形だけどヒルベルト型の不等式の亜種は色々研究されている.
 ちなみにヒルベルトは右辺の定数が$2\pi$の場合を示したらしい。ヒルベルトでも得られなかったタイトな評価を今の自分が理解できるという事実にビビりますね. いかに人類知が積み重ねられ共有されているか.

証明

$$ \int_0^{2\pi} (\pi -t ) e^{int} {\mathrm d}t = \left[\frac{\pi}{in}e^{int} -\frac{1}{in}te^{int} - \frac{1}{n^2}e^{int} \right]_0^{2\pi} = -\frac{2\pi}{in}$$

より

$$\frac{1}{n} = \frac{1}{2\pi i}\int_0^{2\pi} (\pi -t ) e^{int} {\mathrm d}t.$$

ゆえに

$$\begin{aligned} \sum_{n=1}^N \sum_{m=1}^M \frac{a_nb_m}{n+m} &=\frac{1}{2\pi i} \sum_{n=1}^N \sum_{m=1}^M \int_0^{2\pi} a_n b_m(\pi -t )e^{i(n+m)t} {\mathrm d}t\\ &= \frac{1}{2\pi i} \int_0^{2\pi}(\pi -t ) \sum_{n=1}^N a_n e^{int} \sum_{n=1}^M n_m e^{imt} {\mathrm d}t. \end{aligned}$$

積分版シュワルツの不等式などから

$$\begin{aligned} \left|\sum_{n=1}^N \sum_{m=1}^M \frac{a_nb_m}{n+m} \right| &= \frac{1}{2\pi} \left|\int_0^{2\pi}(\pi -t ) \sum_{n=1}^N a_n e^{int} \sum_{m=1}^M b_m e^{imt} {\mathrm d}t \right|\\ &\le \frac{1}{2\pi} \int_0^{2\pi}\left|(\pi -t ) \sum_{n=1}^N a_n e^{int} \sum_{n=1}^M b_m e^{imt}\right| {\mathrm d}t \\ &\le \frac{1}{2\pi}\cdot \pi\cdot \int_0^{2\pi}\left| \sum_{n=1}^N a_n e^{int} \sum_{m=1}^M b_m e^{imt}\right| {\mathrm d}t \\ &\le \frac{1}{2\pi}\cdot \pi\cdot \sqrt{\int_0^{2\pi}\left| \sum_{n=1}^N a_n e^{int} \right|^2 {\mathrm d}t \cdot \int_0^{2\pi}\left| \sum_{m=1}^M b_m e^{-imt} \right|^2 {\mathrm d}t}\\ &= \frac{1}{2\pi}\cdot \pi\cdot \sqrt{2\pi \sum_{n=1}^N a_n^2} \cdot \sqrt{2\pi \sum_{m=1}^M b_m^2}\\ &= \pi \sqrt{\sum_{n=1}^N a_n^2}\sqrt{\sum_{m=1}^M b_m^2}. \end{aligned}$$

となる. とくに$\{a_n\},\{b_m\}$が$l^2$の元ならば$N, M\to \infty$として目的の不等式が得られる.

補足

 上の証明では$1/n$をフーリエ係数として表すのが肝であった. 同様に$1/n^2$をフーリエ係数で表せば

$$\sum_{n=1}^\infty \sum_{m=1}^\infty \frac{a_nb_m}{(n+m)^2}$$

も評価できる.

 他のやり方としては$1/p+1/q=1$なる正数$p, q$を用いて次のように式変形して,

$$\begin{aligned} \sum_{n=1}^N \sum_{m=1}^M \frac{a_nb_m}{n+m} &= \sum_{n=1}^N \sum_{m=1}^M \frac{a_n}{(n+m)^{\frac 1 p}( \frac{m}{n})^{\frac {1}{pq}}} \frac{b_m}{(n+m)^{\frac 1 q}( \frac{n}{m})^{\frac {1}{pq}}} \end{aligned}$$

右辺にヘルダーを使えば

$$\sum_{n=1}^\infty \sum_{m=1}^\infty \frac{a_nb_m}{n+m} \le C_{p,q} \|a\|_p\|b\|_q$$

の形の評価を作れる. 今回は$p=q=1/2$の場合で$C_{1/2,1/2}=\pi$だったということ.

 ちなみに今回示した不等式の$\pi$という係数はこれ以上改善できない. この事実は

$$ a_n = b_n = \frac{1}{n^{\frac{1}{2}+\varepsilon}}$$

の場合を考えるとわかる. (そんなに自明ではなくちょっと計算する必要がある...) こういう例は空から降ってきたかのように見えるけど$\{a_n\},\{b_n\}$がギリギリ$\ell^2$から外れるか外れないところを考えてると言われたらなるほどなーって感じ.