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Popoviciuの不等式
マイナーな不等式です. 以下が知られています.
定理
凸関数$f:\R\to\R$および$x,y,z\in\R$に対して
$$f(x)+f(y)+f(z) + 3f\left(\frac{x+y+z}{3}\right) \ge 2 f\left(\frac{x+y}{2}\right) + 2 f\left(\frac{y+z}{2}\right) + 2 f\left(\frac{z+x}{2}\right).$$ 凸関数に対する不等式でJensenの不等式みたいですが, 結構シビアな不等式です.
証明はググればすぐ出てくるので割愛しますが(1)図形的な意味を考えるもの や(2)Karamataの不等式の特殊ケースとして示すもの が有名かなと思います.
例題
この不等式のどのあたりがシビアなのか見るために次の問題を考えましょう.
問題
正の実数$a,b,c$に対して次が成り立つことを示せ.
$$a^6+b^6+c^6+3a^2b^2c^2 \ge 2(a^3b^3+b^3c^3+c^3a^3).$$
とりあえず相加相乗平均の不等式で頑張ってみると...
および
$$\begin{aligned} a^3b^3+b^3c^3+c^3a^3 \ge 3\sqrt[3]{a^3b^3 \cdot b^3c^3 \cdot c^3a^3} = 3a^2b^2c^2 \end{aligned}$$は簡単にわかり, まとめると
$$a^6+b^6+c^6 \ge a^3b^3+b^3c^3+c^3a^3 \ge 3a^2b^2c^2$$です. そこで元の問題を見るとあれ?っとなります. 最弱のはずの$3a^2b^2c^2$が左辺にいます... つまり相加相乗平均の不等式をどうこねくり回しててもこの問題の不等式は示せません.
$abc$とか$a^2b^2c^2$みたいなものは相加相乗平均の不等式の世界で最弱なのでこれを含んだ式を下から抑えろって言う問題は結構難しいわけです. そういう問題では大体Schurの不等式だったりが活躍しますが今回はPopoviciuの不等式による解答を書きます.
解答
$a=e^{x/6}, b =e^{y/6}, c =e^{z/6}$と変数変換すると, 示すべき不等式は
$$e^x+e^y+e^z+3e^{\frac{x+y+z}{3}} \ge 2e^{\frac{x+y}{2}} + 2e^{\frac{y+z}{2}} + 2e^{\frac{z+x}{2}}$$に他ならない. これはPopoviciuの不等式で$f(x)=e^x$の場合そのもの.
Popoviciuの不等式で一発でした. 気持ち的には 大+小 $\ge$ 2$\cdot$中 みたいな不等式です.
$f(x)=1/x$とかに使うだけでも難しい(知識がないと結構キツイ)不等式の問題が作れます.