2021/04/29 01:15 更新
平行条件の外積による特徴づけ
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目次

本稿の目的

本稿ではベクトルといえば空間ベクトル(3 次元のベクトル)のことを指すものとする。

2 つのベクトル $\bm{a}$ と $\bm{b}$ とが互いに平行であることを $\bm{a}\parallel\bm{b}$ と表すことにする。

本稿の目的は,$\bm{a}\parallel\bm{b}$ であることと $\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ であることとが互いに同値であることを示すことである。2 つのベクトルが平行であるという条件は,それらの外積がゼロベクトルになるという等式で表現することができるわけである。2 つのベクトルが互いに垂直であるという直交条件は,それらのベクトルの内積が $0$ になるという等式で表現されたわけであるが,直交条件は内積,平行条件は外積で表現できることから,内積だけでなく外積も導入することで,空間ベクトルの理論がようやく「完全体」になる。

なお,内積は最も基本的な演算の 1 つであるベクトル同士の和と同様に,内積をとる 2 つのベクトルが載った平面の中だけで完結した世界を形作るため,ベクトル空間の次元によらずに活躍する演算である。それに対し,外積は 2 つのベクトルの載った平面に垂直な第 3 の方向を生成するので,3 次元ベクトル空間とは相性が抜群によい。

規約:ゼロベクトルは任意のベクトルと平行であること

ゼロベクトル $\bm{0}$ はあらゆるベクトルと平行であるとみなす。そうしておくと,「互いに平行でない 2 つのベクトル」と述べたときに,どちらのベクトルもゼロベクトルでないことが含まれることとなり,便利である。

2 つのベクトルが平行であることの同値な言い換え

さて,$\bm{a}\parallel\bm{b}$ であったとしよう。このとき,次の 3 つの場合に分かれる。

(i) $\bm{a}=\bm{0}$ であるとき。このとき,$1\bm{a}+0\bm{b}=\bm{0}$ が成り立つ。

(ii) $\bm{b}=\bm{0}$ であるとき。このとき,$0\bm{a}+1\bm{b}=\bm{0}$ が成り立つ。

(iii) $\bm{a}\ne\bm{0}$ かつ $\bm{b}\ne\bm{0}$ であるとき。
このとき,$0$ と異なるスカラー $\lambda$ があって,$\bm{a}=\lambda\bm{b}$ が成り立つ。
これは $1\bm{a}+(-\lambda)\bm{b}=\bm{0}$ と表せる。
なお,$\mu=1/\lambda$ とおけば,当然 $\mu\ne 0$ であり,$\mu\bm{a}+(-1)\bm{b}=\bm{0}$ と表すこともできる。

いずれの場合も,$(\lambda,\mu)\ne (0,0)$ であるようなスカラー $\lambda$,$\mu$ で $\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ が成り立つようなものが存在する。

逆に,ある $(\lambda,\mu)\ne (0,0)$ であるようなスカラー $\lambda$,$\mu$ について $\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ が成り立つとき,
$\lambda\ne 0$ かつ $\mu=0$ ならば $\bm{a}=\bm{0}$,
$\lambda=0$ かつ $\mu\ne 0$ ならば $\bm{b}=\bm{0}$,
$\lambda\ne 0$ かつ $\mu\ne 0$ ならば $-\mu/\lambda\ne 0$ で,$\bm{a}=\left(-\frac{\mu}{\lambda}\right)\bm{b}$
となり,上記の場合 (i),(ii),(iii) のいずれかになる。

以上により,$\bm{a}\parallel\bm{b}$ という幾何学的な関係をスカラー乗法と加法というベクトルの基本的な演算を用いて言い表すと,

$(\lambda,\mu)\ne (0,0)$ であるようなある 2 つのスカラー $\lambda$,$\mu$ に対して $\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ が成り立つことである,

となる。これは線形代数の言葉で言えば集合 $\{\bm{a},\bm{b}\}$ が 1 次従属であるということに他ならない。

$\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ ならば $\bm{a}\parallel\bm{b}$ であること

では,$\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ ならば $\bm{a}\parallel\bm{b}$ であることの証明に移ろう。

$\bm{a}=\bm{0}$ ならば $\bm{b}$ がどんなベクトルであれ $\bm{a}\parallel\bm{b}$ である。

$\bm{a}\ne\bm{0}$ であると仮定する。

$\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ であるから,$\bm{a}\times(\bm{a}\times\bm{b})=\bm{0}$ である。

この左辺のベクトル 3 重積を展開すると $(\bm{a}\cdot\bm{b})\bm{a}-\|\bm{a}\|^{2}\bm{b}$ となる。すなわち,

$(\bm{a}\cdot\bm{b})\bm{a}+(-\|\bm{a}\|^2)\bm{b}=\bm{0}$

が成り立つ。$\lambda:=\bm{a}\cdot\bm{b}$,$\mu:=-\|\bm{a}\|^2$ とおけば,$\bm{a}\ne\bm{0}$ であるという仮定により $\mu=-\|\bm{a}\|^2\ne 0$ である。

ゆえに,$(\lambda,\mu)\ne (0,0)$ であって,しかも $\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ が成り立つわけであるから,$\bm{a}\parallel\bm{b}$ であることが示された。$\blacksquare$

$\bm{a}\times\bm{b}\ne\bm{0}$ ならば $\bm{a}\not\parallel\bm{b}$ であること

最後に,$\bm{a}\times\bm{b}\ne\bm{0}$ ならば $\bm{a}\not\parallel\bm{b}$ であることを示そう。そうすれば,$\bm{a}\parallel\bm{b}$ と $\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ とが互いに同値であるという証明が完結する。

あるスカラー $\lambda$,$\mu$ に対して $\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ が成り立つと仮定する。

この等式に右から $\bm{b}$ を外積すると,外積の分配法則により

$\lambda\bm{a}\times\bm{b}+\mu\bm{b}\times\bm{b}=\bm{0}\times\bm{b}$

となるが,$\bm{b}\times\bm{b}=\bm{0}$ かつ $\bm{0}\times\bm{b}=\bm{0}$ であるから $\lambda\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ となる。$\bm{a}\times\bm{b}\ne\bm{0}$ であるから,$\lambda=0$ でなければならない。

仮定した等式 $\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ に戻り,今度はこの等式の左から $\bm{a}$ を外積すれば

$\lambda\bm{a}\times\bm{a}+\mu\bm{a}\times\bm{b}=\bm{a}\times\bm{0}$

となるが,これより先ほどと同じようにして $\mu\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ を得て,$\mu=0$ が結論される。

こうして,$\bm{a}\times\bm{b}\ne\bm{0}$ ならば,$\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ という等式を成立させるようなスカラー $\lambda$,$\mu$ は共に $0$ に等しくなければならないことがわかった。このことは,$(\lambda,\mu)\ne (0,0)$ かつ $\lambda\bm{a}+\mu\bm{b}=\bm{0}$ となるようなスカラー $\lambda$,$\mu$ が存在しないことを意味するので,$\bm{a}$ と $\bm{b}$ は平行たりえない。(線形代数の言葉で言い表せば,集合 $\{\bm{a},\bm{b}\}$ が 1 次独立であるということである。)$\blacksquare$

まとめ

以上で,$\bm{a}\parallel\bm{b}$ であることと $\bm{a}\times\bm{b}=\bm{0}$ であることとが同値であることの証明が完了した。