2021/04/28 14:53 更新
随伴結合子と $t$ 進シャッフル関係式
目次

$\gdef\AA{\mathcal{A}}$ $\gdef\CC{\mathbb{C}}$ $\gdef\bk{\mathbf{k}}$ $\gdef\bl{\mathbf{l}}$ $\gdef\Ad{\mathrm{Ad}}$ $\gdef\KZ{\mathrm{KZ}}$ $\gdef\dep{\mathrm{dep}}$ $\gdef\wt{\mathrm{wt}}$ $\gdef\sh{\mathbin{\text{ш}}}$ $\gdef\SS{\mathcal{S}}$ $\gdef\hS{\widehat{\SS}}$ $\gdef\hof{\mathfrak{H}}$ $\gdef\QQ{\mathbb{Q}}$

本記事は Zeta Advent Calendar 2020 の七日目の記事です.

Introduction / 前提知識

多重ゼータ値を扱う一つの手法として ドリンフェルト結合子 DRINFELD associator という理論があります. KZ 方程式 KNIZHNIK-ZAMOLODCHIKOV equation と呼ばれるある微分方程式の解の比として KZ 結合子 KZ associator $\Phi_{\KZ}$ という冪級数が構成され, その係数に多重ゼータ値が現れます. 一方で KZ 方程式の性質から KZ 結合子が満たす関係式を導くことができ, その係数比較をすることで多重ゼータ値の線型関係式がたくさん出てきます. このようにして得られる関係式族を 結合子関係式 associator relation と呼びます.

KZ 結合子の定義と結合子関係式については, 原田遼太郎 Ryotaro HARADA さんによる日本語の詳しい資料 [Ha] があります. 今回の記事では, デヴィッド・ジャロッセイ David JAROSSAY [J1], [J2] による 随伴結合子 adjoint associator の理論を導入し, $t$ 進多重ゼータ値のシャッフル関係式を証明することを目標とします. $t$ 進という形容詞は HIROSE-MURAHARA-ONO [HMO] 並びに ONO-SEKI-YAMAMOTO [OSY] によるもので, ジャロッセイ自身は $\Lambda$-随伴多重ゼータ値 $\Lambda$-adjoint multiple zeta values と呼んでいます.

以下に方針を述べます. まず逆元を持つ冪級数 $\Phi$ に対し, その 随伴 adjoint と呼ばれる新たな冪級数 $\Phi_{\Ad}$ が定義できます. これが シャッフル方程式 shuffle equation を満たすとき, $\Phi_{\Ad}$ が 随伴シャッフル方程式 adjoint shuffle equation を満たすということが示せます. ここで $\Phi$ を KZ 結合子としてとったとき, $\Phi_{\KZ}$ がシャッフル方程式の解であることと多重ゼータ値のシャッフル関係式が同値になります. したがって, KZ 結合子の随伴 $\Phi_{\KZ,\Ad}$ が随伴シャッフル方程式を満たし, またその係数として $t$ 進多重ゼータ値が現れることから, 関係式が得られることが分かります. これが実はシャッフル関係式に他ならない, という寸法です.

Acknowledgement

補題 2.1, 2.6 の証明についてアドバイスをくださった うめこぶさん, Oddieさん, 龍孫江さん, 数理空間 τόπος の中澤俊彦さん, 安福智明さんにお礼申し上げます. また, 本記事執筆に際し, 放送アーカイブ [He], [HIK], [HK] などにより筆者のモチベーションを向上させてくださったリゼ・ヘルエスタ Lize HELESTA さん, 戌亥とこ Toko INUI さん, アンジュ・カトリーナ Ange KATRINA さんに感謝いたします.

1. $t$ 進多重ゼータ値

本節では $t$ 進シャッフル関係式の主張を述べるために記号と命題の準備を行います. 多重ゼータ値に関する部分は [AK] に基づきます.

不定元 $X_0$, $X_1$ の生成する自由モノイド (つまり empty word $1$ を含む word の集合) を $F$ とおき, $F$ が $\QQ$ 上自由に生成する代数を $\hof=\CC\langle X_0,X_1\rangle$ と書きます. $\hof$ には シャッフル積 という積構造が入ります: $\sh\colon\hof\times\hof\to\hof$ は $1$ を単位元に持つ $\QQ$-双線型な積であって

$$WU\sh W'U'=(W\sh W'U')U+(WU\sh W')U'$$

によって帰納的に定まるものです ($W, W'$ は $X_0, X_1$ からなる word, $\{U,U'\}\subseteq\{X_0, X_1\}$). 対応 $X_1\mapsto dt/(1-t),X_0\mapsto dt/t$ によって $\QQ$ 線型な準同型 $\omega\colon\hof\to\QQ[dt/(1-t),dt/t]$ を定め, word $W=a_1\cdots a_n$ に対し反復積分

$$I(W)\coloneqq\int_{0 < t_1 < \cdots < t_n < 1}\omega(W)$$

を定義します. 正整数 $k$ に対し $X_k=X_1X_0^{k-1}$ と書くことにすると, 次が成立します.

定理 1.1.

正整数の組 $\bk=(k_1,\ldots,k_r)$ (ただし $k_r\ge 2$, この条件を 許容的 という) に対し

$$\zeta(\bk)\coloneqq\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}$$

とおくと $\zeta(k_1,\ldots,k_r)=I(X_{k_1}\cdots X_{k_r})$ が成り立つ.

証明.
微分形式 $dt/(1-t)$ を等比級数として展開すればよいです. [証明終]

定理 1.1 の級数 $\zeta(\bk)$ を 多重ゼータ値 multiple zeta value と呼びます. 積分範囲の分割により, 次の定理が示せます.

定理 1.2.

対応 $W\mapsto I(W)$ を $\QQ$ 線型に延長した写像 $I\colon\hof^0\to\mathbb{R}$ はシャッフル積に関する準同型である.

正整数の組を変数に持つ写像 $f$ が与えられているとします. 組 $\bk=(k_1,\ldots,k_r),\bl=(l_1,\ldots,l_s)$ に対し

$$X_{k_1}\cdots X_{k_r}\sh X_{l_1}\cdots X_{l_s}=\sum_{h_1,\ldots,h_p\ge 1} a_{h_1,\ldots,h_p}X_{h_1}\cdots X_{h_p}$$

となるとき

$$f(\bk\sh\bl)\coloneqq \sum_{h_1,\ldots,h_p\ge 1} a_{h_1,\ldots,h_p}f(h_1,\ldots,h_p) $$

とおきます. こうすると, 定理 1.2 より許容的な組 $\bk,\bl$ に対し関係式

$$\zeta(\bk\sh\bl)=\zeta(\bk)\zeta(\bl)$$

が成り立ちます. これを多重ゼータ値の シャッフル関係式 shuffle relation と呼びます.

多重ゼータ値の収束は変数の許容性 (最後の変数が $2$ 以上) によって保証されるわけですが, 実は次のような定理が成り立ちます.

定理 1.3$$([IKZ]).

許容的な $(k_1,\ldots,k_r)$ と非負整数 $n$ に対し

$$\zeta^{\sh}(k_1,\ldots,k_r,\underbrace{1,\ldots,1}_n)\coloneqq (-1)^nI((X_{k_1}X_{k_2}\cdots X_{k_r-1}\sh X_1^n)X_0)$$

とおくと (許容的でなくてもよい) 任意の組 $\bk,\bl$ に対し $\zeta^{\sh}$ もシャッフル関係式 $\zeta^{\sh}(\bk\sh\bl)=\zeta^{\sh}(\bk)\zeta^{\sh}(\bl)$を満たす.

$\zeta^{\sh}(k_1,\ldots,k_r)$ を シャッフル正規化多重ゼータ値 shuffle-regularized multiple zeta value と呼びます. これを用いて $\mathbb{R}[ [t] ]$ の元

$$\zeta^{\sh}_{\hS}(k_1,\ldots,k_r)=\sum_{i=0}^r (-1)^{k_{i+1}+\cdots+k_r}\zeta^{\sh}(k_1,\ldots,k_i)\sum_{e_{i+1},\ldots,e_r\ge 0}{\left(\prod_{j=i+1}^r\binom{k_j+e_j-1}{e_j}\right)}\zeta^{\sh}(k_r+e_r,\ldots,k_{i+1}+e_{i+1})t^{e_{i+1}+\cdots+e_r}$$

が定まります. このとき $t$ 進シャッフル関係式とは次の定理を指します:

定理 1.4${}$([OSY,${}$Corollary${}$3.11],${}$[J2,${}$Propositions${}$3.4.1,${}$3.4.2]).

任意の正整数 $k_1,\ldots,k_r,l_1,\ldots,l_s$ に対し

$$\zeta^{\sh}_{\SS}((k_1,\ldots,k_r)\sh(l_1,\ldots,l_s))=(-1)^{l_1+\cdots+l_s}\sum_{e_1,\ldots,e_s\ge 0}{\left(\prod_{j=1}^s\binom{l_j+e_j-1}{e_j}\right)}\zeta^{\sh}_{\SS}(k_1,\ldots,k_r,l_s+e_s,\ldots,l_1+e_1)t^{e_1+\cdots+e_s}$$

が成り立つ.

2. 証明

前節で考えた $\hof$ の係数を複素数に変えた $R^-=\CC\langle X_0,X_1\rangle$ について, その次数による完備化を $R=\CC\langle\langle X_0,X_1\rangle\rangle$ とおき, ここに $\CC$ 上のホップ代数の構造を入れることを考えます. 単位射 $\eta$ は埋め込みで, 積として通常の積 (よく concatenation とか言われるものです) を定めます. 余積は通常の (シャッフルでない) 積に関する $\CC$ 線型な準同型 $\Delta\colon R\to R\otimes R$ であって $\Delta(X_i)=X_i\otimes 1+1\otimes X_i$ から定まるものとします ($i=0,1$). 余単位射 $\epsilon$ は $R$ の元の定数項を取る写像とします. 対蹠射 $S$ は $X_0$, $X_1$ の符号を反転させる $R$ 上の反自己同型です. これらの設定が $R$ にホップ代数の構造を定めることは後に使いますが, それ自体は本記事の趣旨ではないので割愛します. $\Phi\in R$ が 原始的 primitive であるとは $\Delta(\Phi)=\Phi\otimes 1+1\otimes\Phi$ を満たすこと, 群的 group-like であるとは $\Delta(\Phi)=\Phi\otimes\Phi$ を満たすことです.

また, $\Phi\in R$ と word $W$ に対し, $\Phi$ の $W$ での係数を $Z_{\Phi}(W)$ で書き, この対応を $\CC$ 線型に拡張することで $Z_{\Phi}\colon R^-\to\CC$ を定めます.

以降, ジャロッセイの用いた言葉遣いに従い, $\Phi\in R$ に対し $Z_{\Phi}$ がシャッフル積に関する準同型となることを "$\Phi$ は シャッフル方程式 を満たす" と言います.

補題 2.1.
$$\Delta(\Phi)=\sum_{A,B\in F}Z_{\Phi}(A\sh B)(A\otimes B).$$

証明.
綴りが $a_1\cdots a_N$ で与えられている word $W$ ($a_i\in \{X_0,X_1\}$) と増加列 $I=(i_1,\ldots,i_n)$, $1\le i_1 < \cdots < i_n\le N$ ($1\le n\le N$) が与えられているとき, $W_I=W_{i_1}\cdots W_{i_n}$ とおきます. つまり $W$ を形作る文字列の中から $I$ に該当しない部分を削ぎ落としてできたものが $W_I$ です. 空積の既約により $W_{\varnothing}=1$ (右辺は empty word) とおきます。これを用いて word $W$ に対し

$$P(W)=\{|(W_I,W_J)\mid I\sqcup J=\{1,\ldots,\wt(W)\}|\}$$

と定めます. ここで $\{|\cdots|\}$ は多重集合 (重複度込みで数えた集合) です. 要するに "$W$ の文字を順序を保ったまま二つに分けるやり方全体を重複度も入れてリストアップしたもの" が $P(W)$ に他ならないわけです. こうすると

$$A\sh B=\sum_{\substack{W\in F\\(A,B)\in P(W)}}W,\qquad \Delta(W)=\sum_{\substack{A,B\in F\\(A,B)\in P(W)}}A\otimes B$$

が得られます. 前者はシャッフルの定義である "順序を保って混ぜる" より明らかで, 二つ目も $W=a_1\cdots a_n$ と綴ったとき

$$\Delta(W)=(a_1\otimes 1+1\otimes a_1)\cdots (a_n\otimes 1+1\otimes a_n)$$

となり, 展開した際に各因子の第一項を取ったものが左側 ($W_I$ 側), 第二項を取ったものが右側 ($W_J$ 側) に溜まっていくと考えるとわかります. このことから $\Phi\in R$ の余積を

$$\begin{aligned} \Delta(\Phi)&=\sum_{W\in F}Z_{\Phi}(W)\Delta(W)\\&=\sum_{\substack{A,B,W\in F\\(A,B)\in P(W)}} Z_{\Phi}(W)(A\otimes B)\\&=\sum_{A,B\in F}{\left(\sum_{\substack{W\in F\\ (A,B)\in P(W)}} Z_{\Phi}(W)\right)}(A\otimes B)\\&=\sum_{A,B\in F} Z_{\Phi}(A\sh B)(A\otimes B). \end{aligned}$$

のように計算できます. [証明終]

補題 2.2.

$\Phi$ がシャッフル方程式を満たすことと群的であることは同値.

証明.

定義より

$$\Phi\otimes\Phi=\sum_{A,B\in F}Z_{\Phi}(A)Z_{\Phi}(B)(A\otimes B)$$

なので, 補題 2.1 より同値性がわかります. [証明終]

注意 2.3.

[F, Lemma 2.1] によれば, 群的な $\Phi\in R$ が $Z_{\Phi}(X_0)=Z_{\Phi}(X_1)=0$ を満たすならば, 非負整数 $r, s$ と $V\in\CC+X_1R^-X_0$ に対し

$$Z_{\Phi}(X_0^rVX_1^s)=\sum_{\substack{0\le a\le r\\0\le b\le s}} (-1)^{a+b}Z_{\Phi}(\pi(X_0^{a}\sh X_0^{r-a}VX_1^{s-b}\sh X_1^b))$$

となります. ただし $\pi$ は $X_0$ で始まるか $X_1$ で終わる項だけを消す射影 $R^-\twoheadrightarrow \CC+X_1R^-X_0$ です. この事実より (仮定を満たす) 冪級数は正整数 $k_1,\ldots,k_r$ に対し

$$\zeta_{\Phi}(k_1,\ldots,k_r)\coloneqq (-1)^rZ_{\Phi}(X_{k_1}\cdots X_{k_r})$$

だけ指定すれば一意に決まる, ということがわかります. したがって ($X_0, X_1$ での係数が消えているとき) 補題 2.2 より等式 (シャッフル関係式) $\zeta_{\Phi}(\bk\sh\bl)=\zeta_{\Phi}(\bk)\zeta_{\Phi}(\bl)$ のみから $\Phi$ が群的になります.

ここで, $\epsilon(\Phi)=1$ を満たす $\Phi\in R$ に対し, $\Phi$ の 随伴 を $\Phi_{\Ad}\coloneqq\Phi X_1S(\Phi)$ で定めます.

命題 2.4.

$\Phi$ が群的であり, 且つ $\epsilon(\Phi)=1$ ならば $\Phi_{\Ad}$ は原始的.

証明.
$R$ のホップ代数としての構造より

$$1=\epsilon(\Phi)=(\eta\circ\epsilon)(\Phi)=(\sh\circ(S\otimes\mathrm{id})\circ\Delta)(\Phi)=S(\Phi)\Phi$$

となるため $S(\Phi)=\Phi^{-1}$ が得られます. ゆえに

$$\begin{aligned} \Delta(\Phi_{\Ad})&=(\Phi\otimes\Phi)(X_1\otimes 1+1\otimes X_1)(\Phi^{-1}\otimes\Phi^{-1})\\&=\Phi_{\Ad}\otimes 1+1\otimes\Phi_{\Ad} \end{aligned}$$

と計算できます. [証明終]

補題 2.5.

$\Phi$ が原始的ならば任意の non-empty word $A,B\in F$ に対し $Z_{\Phi}(A\sh B)=0$.

証明.
$\Phi$ が原始的なとき

$$\Delta(\Phi)=\sum_{W\in F}Z_{\Phi}(W)(W\otimes 1)+\sum_{W\in F}Z_{\Phi}(W)(1\otimes W)$$

なので, 補題 2.1 と比較することで $A,B\in F\setminus\{1\}$ のとき $Z_{\Phi}(A\sh B)=0$ となります. [証明終]

補題 2.6.

$x,y$ を不定元とする. $W(T)=X_1(1-X_0T)^{-1}$ ($T\in R[[x,y]]$) と書くことにすると, 任意の $A,B\in R^-$ に対し

$$(AW(x)\sh B+A\sh BW(y))W(x+y)=AW(x)\sh BW(y).$$

証明.
非負整数 $m,n$ に対し $e_{m,n}=AX_{m+1}\sh BX_{n+1}$ と書く. このとき

$$\begin{aligned} (AW(x)\sh BW(y))(1-(x+y)X_0)&=\sum_{m,n\ge 0}e_{m,n}x^my^n(1-(x+y)X_0)\\&=\sum_{m,n\ge 1}(e_{m,n}-e_{m,n-1}X_0-e_{m-1,n}X_0)x^my^n\\&\qquad+\sum_{m\ge 1}(e_{m,0}-e_{m-1,0}X_0)x^m+\sum_{n\ge 1}(e_{0,n}-e_{0,n-1}X_0)y^n+e_{0,0} \end{aligned}$$

ですが, シャッフル積の定義より $m,n\ge 1$ のとき

$$\begin{aligned} e_{0,0}=(AX_1\sh B)X_1+(A\sh BX_1)X_1,&\qquad e_{m,n}-e_{m,n-1}X_0-e_{m-1,n}X_0=0,\\e_{m,0}-e_{m-1,0}X_0=(AX_1X_0^m\sh B)X_1,&\qquad e_{0,n}-e_{0,n-1}X_0=(A\sh BX_1X_0^n)X_1 \end{aligned}$$

なので

$$\begin{aligned} AW(x)\sh BW(y)&={\left(\sum_{m\ge 0}(AX_{m+1}\sh B)x^m+\sum_{n\ge 0}(A\sh BX_{n+1})y^n\right)}X_1\frac{1}{1-(x+y)X_0}\\&=(AW(x)\sh B+A\sh BW(y))W(x+y) \end{aligned}$$

を得ます. [証明終]

補題 2.7.

$A,B\in F\setminus\{1\}$ に対し $Z_{\Phi}(A\sh B)=0$ が成り立つならば任意の正整数 $k_1,\ldots,k_r,l_1,\ldots,l_s$ に対し

$$\tilde{\zeta}_{\Phi}((k_1,\ldots,k_r)\sh(l_1,\ldots,l_s))=(-1)^{l_1+\cdots+l_s}\sum_{e_1,\ldots,e_s\ge 0}{\left(\prod_{j=1}^s \binom{l_j+e_j-1}{e_j}\right)}\tilde{\zeta}_{\Phi}(k_1,\ldots,k_r,l_s+e_s,\ldots,l_1+e_1)t^{e_1+\cdots+e_s}$$

が成り立つ. ここで

$$\tilde{\zeta}_{\Phi}(k_1,\ldots,k_r)=(-1)^r\sum_{e=0}^{\infty} Z_{\Phi}(X_{k_1}\cdots X_{k_r}X_{e+1})t^e\in\CC[ [t] ]$$

と書いた.

証明.
正整数 $l$ に対し, 補題 2.6 で $x=t+u$, $y=-u$ とおいて $u^{l-1}$ の係数比較をすることで得られる等式

$${\left(\sum_{e=0}^{\infty}\binom{l+e-1}{e}(AX_{l+e}\sh B)t^e-(-1)^l(A\sh BX_l)\right)}X_1\frac{1}{1-X_0t}=\sum_{i=0}^{l-1}\sum_{e=0}^{\infty} (-1)^{l-1-i}\binom{i+e}{e}{\left(AX_{i+e+1}\sh BX_{l-i}\right)}t^e$$

より, 補題の仮定を用いて

$$\begin{aligned} 0&=\sum_{i=0}^{l-1}\sum_{e=0}^{\infty} (-1)^{l-1-i}\binom{i+e}{e}Z_{\Phi}{\left(AX_{i+e+1}\sh BX_{l-i}\right)}t^e\\&=\sum_{e=0}^{\infty} \binom{l+e-1}{e}{\left(\sum_{f=0}^{\infty}Z_{\Phi}((AX_{l+e}\sh B)X_{f+1})t^f\right)}t^e-(-1)^l\sum_{f=0}^{\infty}Z_{\Phi}((A\sh BX_l)X_{f+1})t^f \end{aligned}$$

となります ($AX_{i+e+1}, BX_{l-i}$ はともに empty word でないので). この等式で $A=X_{k_1}\cdots X_{k_r}$, $B=X_{l_1}\cdots X_{l_s}$ とおくことで

$$\tilde{\zeta}_{\Phi}((k_1,\ldots,k_r)\sh(l_1,\ldots,l_s,l))=(-1)^l\sum_{e=0}^{\infty}\binom{l+e-1}{e}\tilde{\zeta}_{\Phi}((k_1,\ldots,k_r,l+e)\sh(l_1,\ldots,l_s))t^e$$

が従い, これを繰り返し適用することで目的の式が得られます. [証明終]

以後 $\Phi\in R$ に対し $\zeta_{\Phi,\hS}\coloneqq\tilde{\zeta}_{\Phi_{\Ad}}$ と定めます.

補題 2.8.

任意の正整数 $k_1,\ldots,k_r$ に対し

$$\zeta_{\Phi,\hS}(k_1,\ldots,k_r)=\sum_{i=0}^r (-1)^{k_{i+1}+\cdots+k_r}\zeta_{\Phi}(k_1,\ldots,k_i)\sum_{e_{i+1},\ldots,e_r\ge 0}{\left(\prod_{j=i+1}^r \binom{k_j+e_j-1}{e_j}\right)}\zeta_{\Phi}(k_r+e_r,\ldots,k_{i+1}+e_{i+1})$$

が成り立つ.

証明.
注意 2.3 ([F, Lemma 2.1]) より非負整数 $e$ に対し

$$Z_{\Phi}(X_0^eX_{k_1}\cdots X_{k_r})=\sum_{i=0}^e (-1)^i Z_{\Phi}(\pi(X_0^i\sh X_0^{e_i}X_{k_1}\cdots X_{k_r}))$$

ですが, $\pi$ の定義より $e-i,i\ge 1$ のときは必ず中身が $X_0$ で始まって消えるため $i=0,e$ のケースのみ考えればよいです. これを計算すると

$$Z_{\Phi}(X_0^eX_{k_1}\cdots X_{k_r})=(-1)^eZ_{\Phi}(X_1(X_0^e\sh X_0^{k_1-1}X_{k_2}\cdots X_{k_r}))=(-1)^e\sum_{e=0}^{\infty}\sum_{\substack{e_1,\ldots,e_r\ge 0\\e_1+\cdots+e_r=e}} {\left(\prod_{j=1}^r \binom{k_j+e_j-1}{e_j}\right)}Z_{\Phi}(X_{k_1+e_1}\cdots X_{k_r+e_r})$$

となります. あとは随伴の定義より明らかです. [証明終]

定理 2.9.

$\epsilon(\Phi)=1$, $Z_{\Phi}(X_0)=Z_{\Phi}(X_1)=0$ 且つ $\zeta_{\Phi}$ がシャッフル関係式 $\zeta_{\Phi}(\bk\sh\bl)=\zeta_{\Phi}(\bk)\zeta_{\Phi}(\bl)$ を満たすならば

$$\zeta_{\Phi,\hS}((k_1,\ldots,k_r)\sh(l_1,\ldots,l_s))=(-1)^{l_1+\cdots+l_s}\sum_{e_1,\ldots,e_s\ge 0}{\left(\prod_{j=1}^s \binom{l_j+e_j-1}{e_j}\right)}\zeta_{\Phi,\hS}(k_1,\ldots,k_r,l_s+e_s,\ldots,l_1+e_1)t^{e_1+\cdots+e_s}$$

が成り立つ.

証明.
$\zeta_{\Phi}$ がシャッフル関係式を満たすことから注意 2.3 より $\Phi$ が群的になり, そのことと $\epsilon(\Phi)=1$ から命題 2.4 より $\Phi_{\Ad}$ が原始的になるため, 補題 2.5, 2.7 から定理が従います. [証明終]

定理 1.1 の証明.
一次の係数が消えている $\Phi_{\KZ}\in R$ であって $\zeta_{\Phi_{\KZ}}=\zeta^{\sh}$ から決定できるものを考えると, 定理 2.9 の仮定を満たしており, かつ補題 2.7 より $\zeta_{\Phi_{\KZ},\hS}=\zeta^{\sh}_{\hS}$ が成り立つため証明が完成します. [証明終]

References

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