前提知識
今回示す事実は基本的な体論の知識に基づくものです.
導入
少し前までゼミで雪江整数論の2巻[1]を読んでいました.この本の1.4節ではGalois拡大と整数環の拡大について述べられています.
本記事は1.4節の例 1.4.9にあった記述について腑に落ちない部分があったため,その部分を再考した記事です.
例 1.4.9では,$K = \mathbb{Q}(\sqrt{2}, \sqrt{5})$の整数環$\mathcal{O}_K$で$\mathbb{Z}$の素イデアルがどう振る舞うかを見ています.その途中で多項式$x^2 - x - 1 \in \mathbb{F}_{p^2}[x]$という多項式が可約であると記述しています.「2次多項式が可約」とは単にその上に根をもつことを表していますが,これは本当でしょうか.今回はこの事実について証明をします.
ターゲット
$x^2-x-1 \in \mathbb{F}_{p^2}[x]$は可約である,
証明
$x^2-x-1 \in \mathbb{F}_{p}[x]$が可約であるかどうかで場合分けする.
$x^2-x-1 \in \mathbb{F}_{p}[x]$が可約な場合
$x^2 - x - 1 \in \mathbb{F}_p[x]$で可約なら,その分解をそのまま使って$x^2-x-1 \in \mathbb{F}_{p^2}[x]$は可約であることが分かる.
$x^2-x-1 \in \mathbb{F}_{p}[x]$が既約な場合
$x^2 - x - 1 \in \mathbb{F}_p[x]$で既約なとき,体$\mathbb{F}_{p}[x]/(x^2-x-1)$は$\mathbb{F}_p$の2次拡大体となる.また,$\alpha = x + (x^2 - x - 1) \in \mathbb{F}_{p}[x]/(x^2-x-1)$は$\alpha^2 - \alpha - 1 = 0$を満たす (cf. 例えば「整数論1 初等整数論から$p$進数へ」本に関する情報はこちら の命題 7.1.22) .
有限体は位数が決まれば同型を除いて一意に定まるため,$\mathbb{F}_{p^2} \cong \mathbb{F}_{p}[x]/(x^2-x-1)$である.以上より,$\mathbb{F}_{p^2}$上の多項式としての$x^2-x-1$にも根があり,したがって可約である.
まとめ
終わってみるとそこまで難しくない主張と証明でした.難しいことも簡単なことの積み重ねできちんと理解できるということかもしれません.それが本当かどうかは分かりませんが……
参考文献
1: 整数論2 代数的整数論の基礎.雪江明彦 著.
2: 整数論1 初等整数論から$p$進数へ.雪江明彦 著.