前提知識
演算子法(その2)の続きです.多少の解析の知識及び,Weierstrassの多項式近似定理とLiouvilleの定理は仮定します.
Titchmarshの定理への準備
Titchmarshの定理とは,その2で定義したCが整域であることを保証する重要な定理です.これを証明する前にいくつか命題を準備します.
命題1 T>0とし,任意のf∈C([0,T],C)に対して,
∀n∈Z≥0[∫0Ttnf(t)dt=0]ならば,区間[0,T]においてf(t)=0である.
proof. Wierstrassの多項式近似定理より,任意のε>0に対して複素係数多項式Pε(t)が存在して,∣f(t)−Pε(t)∣<εとなる.
このとき,∣f(t)−Pε(t)∣2=∣f(t)∣2+∣Pε(t)∣2−f(t)Pε(t)−f(t)Pε(t)で,仮定から
∫0Tf(t)Pε(t)dt=∫0Tf(t)Pε(t)dt=0ゆえ,
∫0T∣f(t)∣2dt≤∫0T∣f(t)−Pε(t)∣2dt=∫0T∣f(t)∣2dt+∫0T∣Pε(t)∣2dt≤ε2Tこれは任意のε>0について成り立つので,
∫0T∣f(t)∣2dt=0これにより[0,T]でf(t)=0であることがわかる.
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※この命題はnの条件をn≥1などに限っても成り立つ。それは命題1の仮定にあるf(t)としてtf(t)などを採用すればよい。
命題2
任意のT>0に対して,f∈C([0,2T],C)が任意の0≤t≤2Tで
∫0tf(τ)f(t−τ)dτ=0⇒∀t∈[0,T][f(t)=0]proof.
z∈Cとして,
∫02Tez(2T−t)dt∫0tf(τ)f(t−τ)dτ=0である.t=2T−u−v,τ=T−vの変数変換をすると,
∬Bez(u+v)f(T−u)f(T−v)dudv=0ただし,B:={(u,v)∈R2;u,v≤T,u+v≥0}
ここで,C:={(u,v)∈R2;u,v≥−T,u+v≤0},D:=[−T,T]×[−T,T]とすると,
∬[−T,T]×[−T,T]ez(u+v)f(T−u)f(T−v)dudv=∬Cez(u+v)f(T−u)f(T−v)dudvRe(z)≥0のとき,M:=[0,2T]max∣f(t)∣とすると,∣ez(u+v)∣≤1だから,
∣∣∣∣∣∣∫−TTezuf(T−u)du∣∣∣∣∣∣2=∣∣∣∣∣∣∫−TTezuf(T−u)du∫−TTezvf(T−v)dv∣∣∣∣∣∣≤∬CM2dudv=2T2M2∣∣∣∣∣∣∫−TTezuf(T−u)du∣∣∣∣∣∣≤2TM∴∣∣∣∣∣∣∫0Tezuf(T−u)du∣∣∣∣∣∣≤∣∣∣∣∣∣∫−TTezuf(T−u)du∣∣∣∣∣∣+∣∣∣∣∣∫−T0ezuf(T−u)du∣∣∣∣∣≤2TM+∫−T0Mdu=(2+1)TMRe(z)≤0のとき,∣ezu∣≤1だから,
∣∣∣∣∣∣∫0Tezuf(T−u)du∣∣∣∣∣∣≤∫0TMdu=TM≤(2+1)TMここで,
F(z):=∫0Tezuf(T−u)duは整関数で,上の議論から有界であるから,Liouvilleの定理より,F(z)は定数関数である.よって
F(n)(0)=∫0Tunf(T−u)du=0が任意のn∈Z>0について成り立つので,命題1と、その後の注意により,[0,T]においてf(t)=0である.
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系f∈Cに対して,f2=0ならばf=0である.
proof. 略
Titchmarshの定理
定理(Titchmarshの定理)任意のf,g∈Cに対して,fg=0⇒f=0またはg=0.
つまり,Cは(非単位的な)整域である.
proof.
fg=0だから,
∫0t(t−τ)g(t−τ)f(τ)dτ+∫0tτf(τ)g(t−τ)dτ=t∫0tf(τ)g(t−τ)dτ=0で,これはf1(t):=tf(t),g1(t):=tg(t)とすればfg1+f1g=0を意味する.両辺にf1gをかけると
f1gfg1+(f1g)2=(f1g)2=0となるので,先の命題2の系から,f1g=0,つまり
∫0tτf(τ)g(t−τ)dτ=0これを繰り返すと
∫0tτnf(τ)g(t−τ)dτ=0を得るので,命題1から0≤τ≤tにおいてf(τ)g(t−τ)=0となる.g=0ならば,[0,t]において,ひいては[0,∞)においてf(τ)=0であり,f=0ならば,[0,∞)においてg(τ)=0である.
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(その4に続く)