前提知識
群論の基礎(準同型定理など)と、冪零群の定義程度がわかれば大丈夫です。(赤雪江くらい)
冪零群の定義などは一応最後に補足として載せておきます。
p群とは、位数が$p^{n}$と表される有限群のことです。
$G>H$とは、$H$が$G$の部分群であることを意味します。記号は基本的に赤雪江に則っています。
主張
$\underline{Theorem.}$ 有限群$G$に対して、次の$3$つの命題は同値である:
$(1)$ $G$は冪零群である。つまり、中心化列が有限の項で自明になる。
$(2)$ $G$の任意の真の部分群$H$に対して、$H$はその正規化群$N_{G}(H)$の真の部分群である。
$(3)$ $G$は有限個のp群の直積と同型である。
(3)⇒(1) の証明(飛ばしてもいいです)
これは以下の補題を示せば十分である。
$\underline{Lem1.}$ p群の中心は自明ではない
proof.
$G$をp群として、その中心が$Z(G)=\{e\}$とすると、類等式において、pの冪でない項が一つ現れるので、矛盾する。
$\underline{Lem2.}$ p群は冪零群である
proof.
$|G|:=p^{n}$とする。$n=0$の場合はabel群であり、成り立つ。
任意のp群$H$に対して$|H|<p^{n}$ならば冪零群であるとすると、$1<|Z(G)|<p^{n}$だから、$G/Z(G)$は$|G/Z(G)|<p^{n}$ゆえ、冪零群である。よって、$G/Z(G)$の中心化列$\{Z_{k}(G/Z(G))\}$に対して、$[G/H,L/H]=[G,L]/H$が成り立つことから、$Z_{k}(G/Z(G))=Z_{k}(G)/Z(G)$が帰納法によって成り立つことがわかる。よって、$G/Z(G)$の中心化列は
という形になる。$Z_{m}(G)=Z(G)$だから、$Z_{m+1}(G)=\{e\}$となり、$G$は冪零群である。
よって帰納法によって命題は示された。
□
$\underline{Lem3.}$ 冪零群の有限個の直積は冪零群である
proof.
略
(1)⇒(2)の証明
$G$がabel群の場合は$H\neq{G}=Z(G)=N_{G}(H)$から従う。
$G$がabel群でない場合を考える。$G$の真の部分群$H$と$Z(G)$との包含関係で場合分けする。
- $H\supseteq{Z(G)}$のとき
$|G|=1$で(2)が成り立つことに注意する。
$|G|$より小さい位数の群に対して(2)が成り立つとすれば、$|Z(G)|>1$($G$は冪零群)より、$|G/Z(G)|<|G|$で、$G/Z(G)$も冪零群である(中心化列を$Z(G)$で割ればよい)ことから、$H/Z(G)\neq{N_{G}(H/Z(G))}$
また、$N_{G}(H/Z(G))=N_{G}(H)/Z(G)$も次のように確認できる:
$$gZ(G)\in{N_{G}(H/Z(G))}$$$$\iff H/Z(G)=gZ(G)(H/Z(G))g^{-1}Z(G)=gHg^{-1}/Z(G)$$$$\iff gZ(G)\in{N_{G}(H)/Z(G)}$$よって、$H/Z(G)\neq{N_{G}(H)/Z(G)}$であるから、$H\neq{N_{G}(H)}$であり、$|G|$についての帰納法から$H\neq{N_{G}(H)}$
2. $H\nsupseteq{Z(G)}$のとき
$h\in{H},z\in{Z(G)\backslash{H}}$に対して、
$$hzHz^{-1}h^{-1}=H$$より、
$$hz\in{N_{G}(H)\backslash{H}}$$よって
$$H\neq{N_{G}(H)}$$□
(2)⇒(3)の証明
この証明に入る前に二つ補題を示す。
$\underline{Lem1.}$ $H<G$と$g\in{G}$に対して、
$$N_{G}(gHg^{-1})=g\,(N_{G}(H))\,g^{-1}$$proof.
$L:=gHg^{-1},N:=N_{G}(H), M:=N_{G}(L)$とすると、
$$\forall{n}\in{N}[(gng^{-1})L(gng^{-1})^{-1}=gn(g^{-1}Lg)n^{-1}g^{-1}\\ =gnHn^{-1}g^{-1} =gHg^{-1} =L]$$これにより、$gNg^{-1}\subset{M}$で、同様に逆の包含関係も言えるから、
$$gNg^{-1}={M}$$
$\underline{Lem2.}$ $H<G$に対して、$N:=N_{G}(H)$とすると、
proof.
$g\in{G}$に対して、$L=gHg^{-1}$とすると、
$$gN=\{x\in{G};xHx^{-1}=L\}$$は$G$を$N$で割った剰余類$G/N$を考えればわかる。
ここでLem1より、$M:=N_{G}(L)=gNg^{-1}$で、$H$と$L$の場合と$N$と$M$の場合とで共役するものが同じだから、
である。特に
$$N=\{x\in{G};xNx^{-1}=N\}=N_{G}(N)$$
~(2)⇒(3)の証明~
$G$のp-Sylow部分群の一つを$S$とし、$N:=N_{G}(S)$とすると、Lem2より、
ここで(2)の主張から、$N=G$でなくてはならない。
これはすなわち、$S\triangleleft{G}$を意味するので、$G$のp-Sylow部分群はそれぞれ丁度$1$つずつ存在する。
ここで改めて$G$のp-Sylow部分群を$S_{p}$とする。
p-Sylow部分群は$G$の部分群の内位数最大のp群であり、$p\neq{q}$ならば、$S_{p}\cap{S_{q}}=\emptyset$なので、$|G|=p_{1}^{n_{1}}...p_{m}^{n_{m}}$とすると、
である。
□
応用
ここで紹介した定理を用いて有限abelの構造定理を容易に示すことができる。手順は以下の通り:
有限abel群は有限冪零群であるから、p群の直積と同型であり、それが可換であるとは直積因子のp群がabel群であることを示せばよく、それは巡回群の直積にほかならないことがわかる。一意性は明らか。
補足(一部の記号や冪零群の定義について)
$\underline{def.}$ $H,L<G$に対して、
$$[H,L]:=<\{aba^{-1}b^{-1};a\in{H},b\in{L}\}>$$と定める。ただし、$H\subset{G}$に対して$<H>$は$H$で生成された群を表す。
$\underline{def.}$ (中心化列)群$G$に対して、
を満たす列$\{Z_{i}(G)\}_{i\in{Z_{\geq{0}}}}$を$G$の中心化列という。
$\underline{def.}$ (冪零群)群$G$が冪零群であるとは、$G$の中心化列$\{Z_{i}(G)\}_{i\in{Z_{\geq{0}}}}$に対して、$m\in{Z_{\geq{0}}}$が存在して$Z_{m}(G)=\{e\}$となることを言う。
※本によっては冪零群の定義として、$G$の部分群の列
で、
$$\forall{i\in{Z_{\geq{0}}}}[G_{i}\triangleleft{G},\,\,G_{i}/G_{i+1}\subset{Z(G/G_{i+1})}]$$となるものが存在するような群である、というものを採用していることがありますが、両方の定義は同値で、今回は中心化列のみで議論しているのであえて両者の同値性は示しません。中心化列を用いない定義のみで議論することももちろん可能で、上の証明を少し修正すればできます。