まえがき
行列関数は難しいです. とても. 今回は行列logの単調性を示します.
スカラーについては
x<y⇒logx<logyですね. 今回はこれの行列バージョンを示そうというわけです. 一般に行列関数の単調性はスカラーの場合ほど自明ではありません. 例えば
O≺A≺B⇏A2≺B2です.
行列対数の定義
ここでは正定値対称行列のlogを定義します. 他の場合は複素値になったりするし,大小関係とはって話になったりするのでスルーします.
まず対角行列D=diag(d1,…,dn)≻Oについて
logD=diag(logd1,…,logdn)として行列対数logDを定めます.
次に,一般のA≻OについてはA=UTDUと対角化されるとして
logA=UT(logD)Uと定義します.
補題1
I≺A⇒A−1≺I. これはスカラーx>0に対して1<xならばx−1<1が成り立つことから明らかです. Aの固有値たちに対してこの性質を使ってください.
補題2
O≺A≺B⇒B−1≺A−1. これは逆数をとる操作が行列に対しても単調性を持つということを言っています. 証明は補題1から簡単にわかります. 実際,
O≺A≺B ⇒ O≺I≺A−21BA−21⇒ (A−21BA−21)−1≺I⇒ A21B−1A21≺I⇒ B−1≺A−1.log の単調性の証明
本題です. O≺A≺BのときのlogAとlogBの大小関係を考えましょう.
まずスカラーxについて
logx=∫0∞(1+t1−x+t1)dtが成り立ちますね(^^). よって対角行列D=diag(d1,…,dn)≻Oに対して
logD=∫0∞((1+t)−1I−(D+tI)−1)dtです.
A=UTDUのときlogA=UT(logD)Uと定義したのですが上の式を代入して
logA=∫0∞((1+t)−1I−(A+tI)−1)dtという表式も得られます. よって,
logB−logA=∫0∞((A+tI)−1−(B+tI)−1)dt. O≺A≺BならばO≺A+tI≺B+tIなので,補題2を使えば右辺の中身(被積分行列関数?)は正定値であることがわかります. ゆえにlogB−logAが正定値,つまり
logA≺logBであることがわかりました.