2020/07/25 06:02 更新
行列対数関数の単調性
369 いいね ブックマーク

まえがき

 行列関数は難しいです. とても. 今回は行列log\logの単調性を示します.
 スカラーについては

x<ylogx<logyx<y \Rightarrow \log x < \log y

ですね. 今回はこれの行列バージョンを示そうというわけです. 一般に行列関数の単調性はスカラーの場合ほど自明ではありません. 例えば

OABA2B2O\prec A \prec B \nRightarrow A^2 \prec B^2

です.

行列対数の定義

 ここでは正定値対称行列のlog\logを定義します. 他の場合は複素値になったりするし,大小関係とはって話になったりするのでスルーします.

 まず対角行列D=diag(d1,,dn)OD={\rm diag}(d_1,\dots, d_n)\succ Oについて

logD=diag(logd1,,logdn) \log D = {\rm diag}(\log d_1,\dots, \log d_n)

として行列対数logD\log Dを定めます.
 次に,一般のAOA\succ OについてはA=UTDUA=U^{\mathsf T}D Uと対角化されるとして

logA=UT(logD)U \log A=U^{\mathsf T} (\log D) U

と定義します.

補題1

IAA1I.I \prec A \Rightarrow A^{-1}\prec I .

 これはスカラーx>0x>0に対して1<x1<xならばx1<1x^{-1}<1が成り立つことから明らかです. AAの固有値たちに対してこの性質を使ってください.

補題2

OABB1A1.O \prec A \prec B \Rightarrow B^{-1}\prec A^{-1} .

 これは逆数をとる操作が行列に対しても単調性を持つということを言っています. 証明は補題1から簡単にわかります. 実際,

OAB  OIA12BA12 (A12BA12)1I A12B1A12I B1A1. \begin{aligned} O \prec A \prec B \ &\Rightarrow\ O \prec I \prec A^{-\frac{1}{2}}B A^{-\frac{1}{2}}\\ &\Rightarrow\ \left(A^{-\frac{1}{2}}B A^{-\frac{1}{2}}\right)^{-1} \prec I\\ &\Rightarrow\ A^{\frac{1}{2}}B^{-1} A^{\frac{1}{2}}\prec I\\ &\Rightarrow\ B^{-1}\prec A^{-1}. \end{aligned}

log\log の単調性の証明

 本題です. OABO \prec A \prec BのときのlogA\log AlogB\log Bの大小関係を考えましょう.

 まずスカラーxxについて

logx=0(11+t1x+t)dt \gdef\dd{\mathrm{d}} \log x = \int_0^\infty \left(\frac{1}{1+t} - \frac{1}{x+t}\right) \dd t

が成り立ちますね(^^). よって対角行列D=diag(d1,,dn)OD={\rm diag}(d_1,\dots, d_n)\succ Oに対して

logD=0((1+t)1I(D+tI)1)dt\log D = \int_0^\infty \left((1+t)^{-1}I - (D+tI)^{-1}\right) \dd t

です.
 A=UTDUA=U^{\mathsf T}D UのときlogA=UT(logD)U\log A = U^{\mathsf T}(\log D) Uと定義したのですが上の式を代入して

logA=0((1+t)1I(A+tI)1)dt\log A = \int_0^\infty \left((1+t)^{-1}I - (A+tI)^{-1}\right) \dd t

という表式も得られます. よって,

logBlogA=0((A+tI)1(B+tI)1)dt.\log B - \log A = \int_0^\infty \left((A+tI)^{-1}-(B+tI)^{-1}\right) \dd t.

 OABO \prec A \prec BならばOA+tIB+tIO \prec A+tI \prec B+tIなので,補題2を使えば右辺の中身(被積分行列関数?)は正定値であることがわかります. ゆえにlogBlogA\log B - \log Aが正定値,つまり

logAlogB \log A \prec \log B

であることがわかりました.