2020/07/25 06:02 更新
行列対数関数の単調性
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まえがき

 行列関数は難しいです. とても. 今回は行列$\log$の単調性を示します.
 スカラーについては

$$x<y \Rightarrow \log x < \log y$$

ですね. 今回はこれの行列バージョンを示そうというわけです. 一般に行列関数の単調性はスカラーの場合ほど自明ではありません. 例えば

$$O\prec A \prec B \nRightarrow A^2 \prec B^2$$

です.

行列対数の定義

 ここでは正定値対称行列の$\log$を定義します. 他の場合は複素値になったりするし,大小関係とはって話になったりするのでスルーします.

 まず対角行列$D={\rm diag}(d_1,\dots, d_n)\succ O$について

$$ \log D = {\rm diag}(\log d_1,\dots, \log d_n)$$

として行列対数$\log D$を定めます.
 次に,一般の$A\succ O$については$A=U^{\mathsf T}D U$と対角化されるとして

$$ \log A=U^{\mathsf T} (\log D) U$$

と定義します.

補題1

$$I \prec A \Rightarrow A^{-1}\prec I .$$

 これはスカラー$x>0$に対して$1<x$ならば$x^{-1}<1$が成り立つことから明らかです. $A$の固有値たちに対してこの性質を使ってください.

補題2

$$O \prec A \prec B \Rightarrow B^{-1}\prec A^{-1} .$$

 これは逆数をとる操作が行列に対しても単調性を持つということを言っています. 証明は補題1から簡単にわかります. 実際,

$$ \begin{aligned} O \prec A \prec B \ &\Rightarrow\ O \prec I \prec A^{-\frac{1}{2}}B A^{-\frac{1}{2}}\\ &\Rightarrow\ \left(A^{-\frac{1}{2}}B A^{-\frac{1}{2}}\right)^{-1} \prec I\\ &\Rightarrow\ A^{\frac{1}{2}}B^{-1} A^{\frac{1}{2}}\prec I\\ &\Rightarrow\ B^{-1}\prec A^{-1}. \end{aligned}$$

$\log$ の単調性の証明

 本題です. $O \prec A \prec B$のときの$\log A$と$\log B$の大小関係を考えましょう.

 まずスカラー$x$について

$$ \gdef\dd{\mathrm{d}} \log x = \int_0^\infty \left(\frac{1}{1+t} - \frac{1}{x+t}\right) \dd t$$

が成り立ちますね(^^). よって対角行列$D={\rm diag}(d_1,\dots, d_n)\succ O$に対して

$$\log D = \int_0^\infty \left((1+t)^{-1}I - (D+tI)^{-1}\right) \dd t$$

です.
 $A=U^{\mathsf T}D U$のとき$\log A = U^{\mathsf T}(\log D) U$と定義したのですが上の式を代入して

$$\log A = \int_0^\infty \left((1+t)^{-1}I - (A+tI)^{-1}\right) \dd t$$

という表式も得られます. よって,

$$\log B - \log A = \int_0^\infty \left((A+tI)^{-1}-(B+tI)^{-1}\right) \dd t.$$

 $O \prec A \prec B$ならば$O \prec A+tI \prec B+tI$なので,補題2を使えば右辺の中身(被積分行列関数?)は正定値であることがわかります. ゆえに$\log B - \log A$が正定値,つまり

$$ \log A \prec \log B$$

であることがわかりました.