2022/11/04 13:17 更新
数学ゴール夕卜伝 整数問題 2020 EGMO 日本代表一次選抜試験
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目次

はしがき

2020 年ヨーロッパ女子数学オリンピック日本代表一次選抜試験のある問題に取り組んだものの,未だ解けていない.その代わり,それをヒントに,より難易度の低い整数問題を考え,一応,自分なりの解答を得たので,ここに公開する.いくつかの標準的な大学受験問題集を見たところ,私の問題は大学入試の基本~標準レベルの問題のようである.

2001 年に出版された『数学オリンピック教室』(朝倉書店)のまえがきで,当時 70 代半ばであった著者の野口廣さんは,本に収録されている問題にご本人が取り組むとしたら「1 題を 1 週間で解ければ万歳だ」と述べられている.常識的に考えればこれは謙遜であろうが,楽観的に見積もっても数学的能力が下の中くらいあるかどうか危うい枯れた中年の私にはとても共感できる言葉である.したがって,野口さんの率直な感想なのだと言葉通りに受け止めている.

私の当面の目標は,いくら時間が掛かってもよいので,JJMO 予選レベルの問題を自力でしっかりと解けるようになることである.

気が早いが,展望を述べておくと,ある程度自信がついたら,JJMO 本選もしくは JMO 予選問題に挑戦していくこととしたい.

JMO 本選や IMO の問題は,まあ,ちらちら眺めて,密かにチャレンジしていく予定である.

それはそれとして,つい興味を抱いて解きたくなってしまうような,そんな魅力的な問題を自分でも作り出すことが本当の大目標である.

問題

式 $(x^2+1)/(2x+1)$ の値が整数になるような整数 $x$ をすべて求めよ.

解答

高校数学レベルの整数問題で標準的な手法で解ける問題である. これは,与えられた $x$ の有理式を $f(x)$ とおくとき,$xy$ 平面における曲線 $y=f(x)$ 上の格子点,すなわち,$x$ 座標と $y$ 座標が共に整数であるような点をすべて求める問題ともいえる.

あるいは,$y=f(x)$ の分母を払って,$x$ の方程式

$$x^2-2yx-y+1=0$$

が整数解を持つような整数 $y$ の値をすべて求め,そのような各 $y$ につき,整数解 $x$ もすべて求める,という出題の仕方もあり得よう.こちらのバージョンであれば分数関数を表に出さず,しかも $x$ の 2 次方程式であるから,高校の数学 IA の範囲内に収まっている感じが強く漂う.実際,数学 IA の問題集で,よく似た 2 次方程式の整数解の存在に関する問題を見かけたので,大学入試標準レベルと判断した.

さて,私の考案した解答を以下に述べるが,最善であるという自信はあまりない.

もともとの形,つまり $(x^2+1)/(2x+1)$ が整数になるような整数 $x$ を求める,という設定にこだわり,$x^2+1$ を $2x+1$ で割ったらどうなるかを考えてみる.「実数係数の多項式」の世界であれば,整式の除法として 2 次式 $x^2+1$ を 1 次式 $2x+1$ で割るのは造作もないが,本問では商が整数である場合を考えたいので,「整数係数の多項式」の世界での計算しか許されていない.そうすると,$x^2+1$ は $2x+1$ で割れず,話は行き詰ってしまう.

しかし,あきらめずにこだわりを貫いてみよう.

$$x^2+1=y(2x+1)$$

を出発点にとる.$4x^2+4x+1=(2x+1)^2$ であるから,上の等式の両辺を 4 倍し,さらに両辺に $4x=2(2x+1)-2$ を加える.

$$4x^2+4+4x=4y(2x+1)+2(2x+1)-2$$

式が見やすくなるように,$X:=2x+1$ とおくと,これは

$$X^2+3=4yX+2X-2$$

と書き換えられる.その結果,

$$X(X-4y-2)=-5$$

という等式に到達する.ここまでくればゴールは目前である.

$x$ と $y$ がいずれも整数であるとき,$X=2x+1$ および $X-4y-2$ も整数である.したがって,特に $X$ は $-5$ の約数でなければならない.そして $-5$ の約数は $\pm 1$ と $\pm 5$ の 4 個しかない.これだけ絞れたので,あとはしらみつぶしでいく.

$X=-5$ のとき,$2x+1=-5$,$-5-4y-2=1$ であるから,$(x,y)=(-3,-2)$ となる.

$X=-1$ のとき,$2x+1=-1$,$-1-4y-2=5$ であるから,$(x,y)=(-1,-2)$ となる.

$X=1$ のとき,$2x+1=1$,$1-4y-2=-5$ であるから,$(x,y)=(0,1)$ となる.

$X=5$ のとき,$2x+1=5$,$5-4y-2=-1$ であるから,$(x,y)=(2,1)$ となる.

以上により,求める $x$ の値は $-3$,$-1$,$0$,$2$ である.$\Box$

未知数の 1 次式の積がある具体的な整数に等しいという等式を導いて未知数を突き止めていく,因数分解型の手法は,かつて標準的な高校数学の参考書もしくは問題集で学んだ基本テクニックであるから,それで解ける本問はまさしく普通の高校数学レベルといえよう.

あとがき

そういえば,「前置き」というのはあるけど,「後置き」なるものはあるのだろうか.

それはともかくとして,類題として $x^2/(2x+1)$ が整数値になるような,とか,$(x^3+1)/(2x+1)$ が整数値を取るような,なんて問題も思い浮かべたものの,きちんと解いたわけではない.前者には $x=-1$,後者には $x=3$ という解があることは容易に確かめられるが,問題はそれぞれ他にも整数解があるかどうかである.それはまだ私は解決していないし,$x^n/(ax+b)$ が整数値を取る整数 $x$ を求めよ,みたいな一般化をしたら一体どうなってしまうのか,なんていうことにも何一つ見通しは持っていない.

おまけ

desmos で曲線 $y=f(x)$ に格子点をすべて描き込んだものを付しておく.

あと,WolframAlpha® の検索窓に

$$x^2+1-y(2x+1)=0 の整数解$$

と入力するだけで,すぐさま解が全部表示される.

ついでに $y=(x^3+1)/(2x+1)$ や $y=x^2/(2x+1)$ の整数解も一通り表示させてみた.

作問の際にはこの上なく頼りになる強力なツールだけども,JJMO とか JMO の予選でインターネットアクセス可とかノートパソコン持ち込み可とかにしちゃダメだね,絶対.

今絶賛流行中の深層学習だの AI だのは全く知らないけれども,すでに JJMO や JMO の予選を勝ち抜けるくらいの能力を AI は備えているのではなかろうか.