2020/04/22 16:45 更新
クロスニコル観察における明滅現象
目次

前提知識

電磁気学、光学、ジョーンズベクトルの計算を一通り理解した方。

本題

作製した薄膜が単結晶であるか否かを確認するのにクロスニコル観察という手法がある。クロスニコル観察は、物質に直線偏光を入射し、その入射偏光と垂直な方向に偏光子を配置して出射光を観測する手法である。出射光側に置かれた偏光子を検光子と呼ぶ。

光学異方性物質においては入射する直線偏光が固有偏光の向きと非平行の場合は、透過光は楕円偏光である。そのため、検光子を通しても出射光が観測される。一方、入射光が固有偏光と平行の場合は、透過光は直線偏光である。そのため、検光子を通すと出射光は観測されない。したがって、サンプルを回転させると固有偏光と直線偏光の角度が変化して、出射光の明滅が観測される。

クロスニコル観察による出射光$E_c$をジョーンズベクトルとジョーンズ行列で表す。ここでは通常光線と異常光線の固有偏光の方向を$o$軸、$e$軸として、光学異方性物質に入射する直線偏光を$(E_o, E_e)$とした。入射光の成分に光学異方性物質による位相差$\theta$を与え、さらにそれを入射偏光に垂直な方向に射影して出射光を計算している。

$$\begin{aligned} E_c&= \dfrac{1}{E_o^2+E_e^2} \left( \begin{array}{cc} E_e^2 & -E_oE_e \\ -E_oE_e & E_o^2 \\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{cc} e^{-i\frac{\theta}{2}}&0 \\ 0&e^{i\frac{\theta}{2}} \\ \end{array} \right) \left( \begin{array}{c} E_o \\ E_e \end{array} \right) \\ &= \dfrac{1}{E_o^2+E_e^2} \left( \begin{array}{cc} E_e^2 & -E_oE_e \\ -E_oE_e & E_o^2 \\ \end{array} \right) \left(\begin{array}{c}{e^{-i\frac{\theta}{2}}E_o} \\ {e^{i\frac{\theta}{2}}E_e} \end{array}\right) \\ &= \dfrac{2iE_oE_e \sin\dfrac{\theta}{2}}{E_o^2+E_e^2}\left(\begin{array}{c}-E_e \\ E_o \end{array}\right) \end{aligned}$$

入射する直線偏光の絶対値を1として、$o$軸との傾きを$\phi$とすると、$(E_o, E_e)=(\cos\phi, \sin\phi)$である。すると、

$$\begin{aligned} |E_c|^2= \sin^2(2\phi) \sin^2\dfrac{\theta}{2} \end{aligned}$$

である。透過光強度は電場の絶対値の2乗に比例する。よって、異方性物質を回転させると、$\phi$が変化し、周期$\dfrac{\pi}{2}$で明滅することが分かる。

単結晶で光学異方性を持つ物質であっても、多結晶やアモルファスになっている場合は、固有偏光が定まらずサンプルを回転させても観測光が明滅することがなくなる。よってクロスニコル観察により、単結晶か否かを判別したり、単結晶ドメインを決定することが出来る。