2020/11/21 23:53 更新
演算子法(数学)その1(概要)
目次

前提知識

環論の知識はあった方がいいと思います。非単位的環の局所化をするので、「整域」など、用語の定義が通常と若干異なったものとなっている可能性があるため、環の定義などについて簡単に言及しておきます。

$\underline{Def.}$ (環)集合$R$が環であるとは、和に関してabel群であって、かつ積に関して半群であり、分配則を満たすものを言う。特に、積の単位元が存在する環を「単位的環」、存在しない環を「非単位的環」と呼ぶ。また、積が可換である環を「可換環」と呼ぶ。

$\underline{Def.}$ (整域)環$R$が「整域」であるとは、任意の$a,b\in{R\backslash{\{0\}}}$に対して$ab\neq{0}$であることを言う。特に単位的環が整域であるとき「単位的整域」と呼び、非単位的環は「非単位的整域」と呼ぶこととする。

$\underline{eg.}$ $\mathbb{Z}$は$0$を和の単位元(以下零元)、$1$を積の単位元(以下単位元)とする単位的可換環であり、整域である。

$\underline{eg.}$ $2$の倍数全体を表す$2\mathbb{Z}$は$0$を零元とする非単位的可換環であり、整域である。

概要(本論)

Wikipediaで演算子という項目が存在し、その周辺を漁っていたらこのミクシンスキーの「演算子法」という理論を発掘しました。なんでも、Heavisideが考案した、見かけ上代数的に微分方程式を解くという手法を数学的に正当化した理論の一つであるようです。
この理論を用いればLaplace変換による微分方程式の解法も正当化できるということは非常に興味深いと思いました。

具体的には以下のように議論が進みます:

連続関数$f:\mathbb{R_{\geq{0}}}\rightarrow{\mathbb{R}}$全体の集合を$C$とする。$C$において、和として通常の和、積として「畳み込み積」を導入することで環と考える。すなわち、

$$ \forall{x\in{\mathbb{R_{\geq{0}}}}}[(f+g)(x):=f(x)+g(x)]\\$$$$\forall{x\in{\mathbb{R}_{\geq{0}}}} \left[(fg)(x):=\int_0^{x}f(t)g(x-t)dt\right]$$

と定義する。
これが$0$($0(x)=0$なる$C$の元)を零元とする可換環であることは容易にわかる。
実は$C$は非単位的可換環であるが、のちに述べるTitchmarshの定理から、$0$以外に零因子を持たないことがわかる。

そこで、単位元はないが単位的整域の場合と同様な手続きで$C$を局所化すると体となる。こうして作られた商体を$K$とする。
このとき、$K$の単位元はDiracのデルタ関数$\delta(x)$となることは非常に興味深い。(単位元の一意性から従う)
ここで、$\R_{\geq{0}}$に制限した定数関数$K\supset{C}\ni{I:x\mapsto{1}}$を考えると、任意の$f\in{C}$に対して

$$(If)(x)=\int_0^{x}f(t)dt$$

ゆえ、$I$は積分を表す「演算子」であると思うことができる。
ところで、$K$は体ゆえ、積分演算子の(積の)逆元、つまり「逆演算」が定義できる。これが微分を表す「演算子」$d$として現れる。
ただし、$d$は正確には微分そのものではなく、$df=f'+f(0)$となる。

$I$は連続関数だが、ここで現れた$\delta(x)$や$d$は正確には関数ではない別の概念である。そこで$K$の元を「演算子」と呼ぶ。

演算子で微分方程式を記述すると、微分方程式がLaplace変換を使ったときと同様に解ける。

例えば微分方程式

$$\gdef\dd{\mathrm{d}} \gdef\d#1{\frac{\dd}{\dd #1}} \gdef\dv#1#2{\frac{\dd #2}{\dd #1}} \gdef\ndv#1#2#3{\frac{\dd^{#3} #2}{\dd #1^{#3}}} \ndv{t}{x}{2}-x=0,\,x(0)=0,\,x'(0)=2$$

は演算子で表現すれば

$$d^{2}x-x=(d^{2}-1)x=2$$

と書くことができ、

$$x=\frac{2}{d^{2}-1}=\frac{1}{d-1}-\frac{1}{d+1}$$

と解ける。
ここで、$a\in{\R}$に対して

$$\frac{1}{d-a}=\exp(at)$$

という関係が知られているので、

$$x=\exp(t)-\exp(-t)$$

となる。これはもとの微分方程式の解にほかならない。

(その2に続く)

参考

  • ミクシンスキー, 「演算子法」

ここにだいたいのことは書いてあります。他の参考書は知らないので申し訳ないです。