2021/02/06 00:07 更新
オイラーの分割恒等式
目次

前提知識

 自然数 $n$ を(その順番の違いを除いて)自然数の和として表す方法の総数を分割数と呼びます。分割恒等式とは、分割数に関する恒等式のことです。

はじめに

 数学フリークなら誰でも知っているオイラー。彼の星の数ほどある業績の中では割と地味な部類に入る(と私が勝手に思っている)オイラーの分割恒等式について、ちょっと変わった証明をご紹介いたします。

定理

定理 :オイラーの分割恒等式

 自然数$n$を異なる自然数の和として表す方法の総数は、$n$を(重複を許して)奇数の和として表す方法の総数に等しい。

 The number of ways of expressing $n$ as the sum of distinct positive integers equals the number of ways of expressing $n$ as the sum of (not necessarily distinct) odd positive integers.

 $n$として$6$を例にとって説明します。
異なる自然数の和;

$$ \begin{aligned} &6 = 1 + 2 + 3\\ &6 = 1 + 5\\ &6 = 2 + 4\\ &6 = 6 \end{aligned}$$

4通りです。最後の$6=6$など、いかにも数学っぽいですね。

 奇数の和;

$$ \begin{aligned} &6 = 1 + 1 + 1 + 1 + 1 + 1\\ &6 = 1 + 1+ 1 + 3\\ &6 = 1 + 5\\ &6 = 3 + 3 \end{aligned}$$

 今度は重複を許しても良いことに注意しましょう。やっぱり4通りです。上の定理は$n$がいくつであっても2つ和のの表し方は同じ数になるということを主張しています。

準備

鍵となる多項式

 まずは$f(z)$を以下のように定めます。

$$ \begin{aligned} f(z)=&\prod_{k=1}^{\infty}\left(1+z^k \right)\\ =& (1+z)(1+z^2)(1+z^3)\cdots \end{aligned}$$

 なぜこの関数を考えるかと言うと、この$f(z)$を展開することで得られる多項式は

$$ f(z) = 1 +z + z^2 + 2z^3 + \cdots =\sum_{n=0}^\infty c_n z^n$$

という形をしていますが、$z^n$の係数$c_n$がまさに今知りたい"$n$を異なる自然数の和で表す方法の総数"となっているからです。先程の$6$の例で言えば$c_6 = 4$になるということです。これは簡単に確認することができます。というのも$f(z)$を展開したときに$z^6$が出てくるのは

$$(1+ z^6),(1+ z^2)(1+z^4),(1+z)(1+z^5),(1+z)(1+z^2)(1+ z^3)$$

という部分からだけであり、これはすなわち

$$ z^6, z^{2+4},z^{1+5}, z^{1+2+3}$$

という指数部分と対応しているからです。要するに$f(z)$を展開した形が分かれば$n$を異なる自然数の和で表す方法が何通りあるかを知ることができます。

もう1つの多項式

 続いて全く同じ方法で"$n$を奇数の和で表す方法"に対応する多項式$g(z)$を考えます。今度は重複を許しているので$f(z)$のときには$(1+z^k)$で表されていた要素が$g(z)$においては $(1+z^k+z^{2k}+ \cdots)$ という形になることに注意しましょう。すなわち

$$ g(z)=\left(1+z+z^2+\cdots \right)\left(1+z^3+z^6+\cdots \right)\left(1+z^5+z^{10}+\cdots \right)$$

という形になります。これを展開したときの$z^n$の係数が、$n$を奇数の和で表す方法の総数に対応します。しかしこれでは各要素が無限和のため扱いにくいです。そこで

$$1+z^k+z^{2k}+ \cdots=\frac{1}{1-z^k}$$

というお馴染みの関係式を利用します。すると

$$g(z) = \frac{1}{(1-z)(1-z^3)(1-z^5)\cdots}$$

という形に書き直すことができます。

 定理の主張は$f(z)$と$g(z)$の$z^n$の係数が等しいと言っていることになりますので、$f(z)=g(z)$であることが言えれば定理を示したことになります。

証明

 それでは行きましょう。$g(z)=f(z)$を右辺に集めたものを$P(z)$と置きます。すなわち

$$ P(z)=\overbrace{(1+z)(1+z^2)(1+z^3)\cdots}^{f(z)由来} \overbrace{(1-z)(1-z^3)(1-z^5)\cdots}^{g(z)由来(g(z)の分母を移項した)}$$

です。すると$g(z)$由来の$(1-z^k)$の形をした各要素に対して、$f(z)$由来の$(1+z^k)$の形をした要素が必ず1つ存在します。これらのペアの$k$は奇数です。一方、$f(z)$由来の要素$(1+z^k)$のうち$k$が偶数のものは相方がいません。したがって

$$\begin{aligned} P(z)=&(1+z)(1-z)(1+z^3)(1-z^3)(1+z^5)(1-z^5)\cdots(1+z^2)(1+z^4)\cdots\\ =&(1-z^2)(1-z^6)(1-z^{10})\cdots(1+z^2)(1+z^4)\cdots\\ =&P(z^2) \end{aligned}$$

なんと$P(z)=P(z^2)$となってしまいましたので、$P(z)$は定数でなければなりません。つまり$P(z)=1$ すなわち $f(z)=g(z)$です。  

出典

 $P(z)=P(z^2)$に持っていくところが面白いですね。この証明は"Analytic Number Theory" (Donald J. Newman 著 ) に紹介されています。